本書は、写真家・沖守弘氏(1929~2018年)が、1974年以来取材したマザー・テレサの活動とその素顔を、1984年に数多くの写真とともに発表したもので、46刷(2019年1月時点)となるロングセラーである。
マザー・テレサ(本名:アグネス・ゴンジャ・ボヤジュ)は、1910年にオスマン帝国時代のユ
...続きを読むスキュプ(現・北マケドニアのスコピエ)でアルバニア系の熱心なカトリック教徒の両親のもとに生まれた。12歳のときに、神父から、インドには貧しい人びとがたくさんいて、そうした人びとのために働く召命というものがあることを聞いたことがきっかけとなり、18歳のときにアイルランドのロレット修道会に入り洗礼を受け(修道名:テレサ)、1929年にカルカッタ(現・コルカタ)に赴任して修道会の経営する高校の教師になった。しかし、修道会の中の生活に徐々に疑問を感じるようになり、1948年、遂に修道会を出て、カルカッタのスラム街に入っていく。そして、1950年にローマ法王から修道会「神の愛の宣教者たち」として認可を受け、その日からシスター・テレサは「マザー・テレサ」と呼ばれるようになる。その後、「死を待つ人の家」、「孤児の家」、ハンセン病患者の施設などを次々とつくり、その活動が評価されて1979年にはノーベル平和賞を受賞。1997年にカルカッタのマザー・ハウスで亡くなるまで、終生変わることなく、インド(と世界中)の貧しい人びとのために活動を続けたという。
本書を読んで最も心に残ったのは、マザーが繰り返し語る「人間にとってもっとも悲しむべきことは、病気でも貧乏でもない、自分はこの世に不要な人間なのだと思いこむことだ。そしてまた、現世の最大の悪は、そういう人にたいする愛が足りないことだ」という言葉である。
本書に収録されている写真が撮影されたのは、およそ40年前のインドのスラムであり、そこには想像を超えた貧困が存在する。そうした物理的にも絶望的な状況にある人びとが、社会からのみならず、家族からも見捨てられ、ある人は死を迎え、ある子どもは孤児になる。。。そうした人びとに対し、マザーとその姉妹(「神の愛の宣教者たち」の修道女たち)は、ひたすら愛をもって接するのである。
現代日本に生きる我々は、ここから何を感じ取り、何をすればいいのだろうか。。。おそらく2つあるのであろう。一つは、現代世界を覆う、移民・難民の急増、テロの頻発、それらを背景にした偏狭なナショナリズム/ポピュリズムの嵐の大きな原因のひとつが、世界の随所に存在する「物理的な貧困(格差)」にあることは間違いなく、それを無くす(縮小する)こと。そしてもう一つは、繁栄の中でも、生きる意味が見出せない「精神的な貧困」の問題に対処することだが、いずれも難題である。
一方で、マザーのメッセージはいたってシンプルだ。「自分のまわりの貧しい人たちを愛すること」。。。胸に刻み付けておきたいと思う。
(2019年11月了)