別書で、ソフトバンクの強みの一つは「多様性」であると書かれていましたが、その通り、本書で紹介されるソフトバンク幹部は様々な経歴を持った猛者揃いでした。また、本書で紹介されている方の下で働く社員の中にもまだまだ多くの猛者がいることが窺えます。
孫氏の素晴らしいところは、それぞれ独自にビジネスを行って
...続きを読むも成功を納められる実力を持った猛者を惹きつけ、入社してもらい、同士として共通のビジョンに向かって一生懸命働いてもらう魅力にあります。
紹介されるそれぞれの人がそれぞれの分野に情熱を持ち、仕事に取り組んでいる姿が描かれていて、非常に魅力的です。営業と技術が真剣に議論し、成功するための戦略を練り、圧倒的な実行力で実現していく様は読んでいて気持よくなります。
本書を読むまではソフトバンクがどういった会社なのか漠然としたイメージしか持っていませんでした。Yahoo!の大株主やYahoo!BBをやっている会社という程度です。
本書の後半に書かれている宮川潤一氏のこれからの携帯電話市場に関するコメントが的を射る内容で、衝撃を受けたので抜粋します。
宮川氏はブロードバンド黎明期の2001年に独立系ISP会社「ももたろうインターネット」とADSLサービス会社「名古屋めたりっく通信」の代表でしたが、孫氏にそそのかされ、めちゃくちゃな体制でスタートし、混乱を極めたYahoo!BBの事業を取りまとめ成功させた人物です。ブロードバンドの成功を真っ只中で見続けた宮川氏だからこそ見えていた世界ではないかと思います。
「ブロードバンド屋として直感で思っています。インフラをナローバンドからブロードバンドに切り換えると、ユーザーが自分たちで使い勝手を見つけて、トラフィックの使用量を100倍ぐらいに増やしていきました。ですから、本物のインフラに変わっていくことが、まず大事なキーワードだと思ってます。ネットワーク側が、それだけのユーザーが使える環境を提供していくと、当然、データ通信のARPUは上がります。ただ、それだけじゃ知恵がない。それなりのコンテンツを持って、ユーザーが使うようにしていかないと。ソフトバンクは、今まで稼いでた分の音声の課金を捨てて、ユーザーを取りにいったわけです。
~中略~
携帯電話端末は飽和に近いと思ってます。これから、何年がかりで1割増えるかというぐらい鈍化するのはもう見えてます。ただ、少し角度の違った形のネットワークの接続機器は、まだまだ増えると思うんです。単純にいうと、ノートPCが3G系の通信デバイスに変わったら、少なくとも400万やそこらのチャンスが増えてくると思うんです。
~中略~
台数があるからARPUの議論になるんです。あと2年後ぐらいから、台数じゃなくて、全体のレベルでいくらだという時期への突入が始まるような気がします。」
宮川氏が筆者に語ったのはiPadどころか、iPhone 3Gでさえ発表されていない時期だったようです。
私個人、Appleがあまり好きではなく、iPhoneにも関心がないのでドコモユーザーのままですが、本書を読みソフトバンクという会社のイメージが大きく変わり、好きになったので今後、魅力的なAndroid端末が販売されればソフトバンクに乗り換えてもよいかなと思いました。
ソフトバンクという会社を知るにはピッタリの一冊だと思います。あとは、今読んでいる井上篤夫氏が二十数年にわたる徹底取材で描いた決定的評伝と言われる「志高く 孫正義正伝 完全版」を読むとより一層知ることができます。