週刊朝日・編『父の戦記』朝日文庫。
今年は戦後80年、昭和100年にあたる。そのためか、多くの出版社から戦争に関する手記やノンフィクションが復刊、刊行されている。
本作は1965年に単行本として刊行され、1982年には朝日選書、2008年には文庫として刊行された作品の復刊で、週刊朝日が終戦から20年で募集した企画で集まった1,716編の手記から50編をセレクトしたようだ。
現在の世界を見渡すとロシアによるウクライナ侵攻、アメリカを後ろ盾にしたイスラエルによるガザ地区の攻撃、シリア内戦、中国による台湾、フィリピン、日本への軍事的牽制と未だに戦争が続いており、日本を始めとする東アジアの諸国が戦争の業火に包まれてもおかしくない状況にある。
ロシアのプーチンや中国の習近平、北朝鮮の金正恩を見ると国の独裁者が長期的に権力を持つと国が極右化し、盲信的な独裁者の神格化が加速、領土拡大や隣国支配へと突き進む傾向があるようだ。
戦争は嫌だと言っても降り掛かる火の粉は払わぬばならない。日本は何時までもアメリカの一方的な地位協定という支配と引き換えに手に入れた日米安全保障条約による核の傘の下に隠れている訳にはいけない。今こそ、日本が戦争はせずに平和を維持するための施策を検討すべきだろう。
賛否両論あるかと思うが、日本が核兵器を配備し、自国を防衛するというのも1つの策かも知れない。勿論、アメリカとの地位協定も安全保障条約も破棄し、沖縄を始め、日本各地に駐留している在日米軍にはお引き取り願うのだ。無論、日本の軍事費は最低限に留め、余剰の予算は社会保障に充当するのだ。
幾つかの手記で、戦地での心温まる話や戦地での自慢話、自決を思い留まり、帰国した話などが書かれているが、全て眉唾だと思う。実際には民間人を情け容赦無く殺害し、民間人の女性を犯すなど日本軍は悪行の限りを尽くしたはずなのに、大人しい手記ばかりが目立つ。戦争とは殺し合いであり、敵国の民間人をどうこうしたところで、戦争に参加した以上は仕方無いことだと思う。美味しいところだけ切り取りオブラートに包んだ戦争手記にどれほどの価値があろうか。
幾つかの手記を紹介してみる。
平野正巳『戦陣訓は許すことなし』。中国北東部で日本軍のために働いた3人の中国人の若者。非常識が常識だった狂った日本軍の中で3人の中国人だけが常識を知っていた。所謂、戦地での心温まる話の類だ。
大越千速『閉ざされた少年の眸』。日本軍の二等兵が命ぜられた訓練とは捕虜となった内モンゴルの少年兵を刺殺することだった。この手記の執筆者はそのことを悔い、その思いを子どもたちに伝える。正義と不正義、不正義はすなわち敵という歪んだ思想。戦地での残虐な殺人を描いた、希少な正直な部類である。
山田敏文『挺身奇襲隊の風船旅行』。日本軍がこうしたことに真面目に取り組んでいたことを思うと、滑稽な気持ちになる。実戦には参加せず、ひたすら奇妙な訓練ばかりに明け暮れる挺身奇襲隊という忍者部隊が、軍の重要機密である気球の実験と訓練を行う中、発生した事故。毒にも薬にもならぬ平坦な話の部類。
田村昌夫『没法子な牛のはなし』。中国南部に赴いた日本軍。現地の老婆と仲良くなり、食べ物などを融通し合う仲となるが、上官から不条理な命令が下される。戦地での心温まる話と民間人への横暴。実際にはもっと残虐な行為があったはずなのに、ちょっとした美談に仕立てられているのが胡散臭い。
前田三郎『真昼の丘での処刑』。上官から人殺しをさせてやると言われ、中国人の保安隊員を十字架に縛り、次々と銃剣で突いて刺殺したという記憶。戦地での残虐な殺人を正直に記述した希少な部類。
本体価格1,000円
★★★