濱田麻矢の作品一覧
「濱田麻矢」の「半生【はんせい】の絆」「雪の如く山の如く」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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小説・文芸
Posted by ブクログ
同音異字でリーリーという同じ音の名前を持つ6人の女性を描く6つの作品を収録した連作短編
同じ名前の登場人物が出てくることで、リーリーという名前はあるけど、なんとなく匿名性が感じられて、彼女たちの人生は全ての女性たちの人生でもあるというような感じになっているのが面白かったです。
情景描写がものすごく上手くて、そこに人生が変わる瞬間を描き出していて、読んでいて彼女たちの人生に寄り添うような気持ちになる、とても良い短編集でした。
あと、人生はとても複雑で、色々なことが起きて、他人には見えない過去や思いを抱えてみんなが生きているというのがすごく感じられる作品でした。
収録作品ごとの感想を。
「座りたいだけなのに」
大学生の立立(リーリー)が休暇に実家に帰るため、ぎゅうぎゅう詰めの電車に乗る話。
最後がめちゃくちゃ胸糞の悪い終わり方だった。
混雑した電車の描写がものすごい臨場感。
「床の上の血」
再婚した母が暮らす家を訪ねる粒粒(リーリー)の話
ちょっとしたエピソードから母との関係が変化したことを感じさせるのがすごく上手い
「プール」
公共プールに通う瀝瀝(リーリー)は、プールで見かける女性にひそかに憧れていて…というお話
これはものすごく面白かった。
冒頭、かなりのページ数を使って、後世に21世紀のプールという施設の資料として残しても良いくらいに、公共プールのことを丁寧に細かく描写していて、それでも全然つまらなくないのが本当に上手い。
メインのストーリーが始まってからも、面白くて、主人公自身の大きな成長や変化を予感させるラストシーンが特に良かった。
「春の塩」
予期せぬ妊娠で出産をした儷儷(リーリー)。周囲がどんどん新しい生活をするための準備を整えていくことに戸惑いを感じるお話
この手の作品として、こういうラストのセリフを主人公に言わせるところに、作者自身のものすごい強い信念を感じました
「雪山」
恋人の友人の結婚式に参加するために雪山の見える街にやってきた女性が主人公。結婚式用の靴下を持ってこなかった恋人と一緒に訪れた店で、中学生の時の同級生の母親の麗麗(リーリー)と再会する
これが一番好きかも。
主人公と恋人がなんとなく同じ方向を見ていないのだけど、そこにミステリーの謎が解き明かされるように徐々に主人公の過去が明かされて、主人公の背負ったものの重さがずしりと感じられる展開に。
作品は主人公視点なのだけど、最終的にちゃんと麗麗がどのような人生を歩んできたのかを感じさせてくれるし、ラストに主人公が選ぶ生き方にものすごくこちらの感情がゆさぷられました。
こういう作品ってもっと過去を振り切って前向きに生きる展開が多いと思うのだけど、人生というものに対して楽観的な描き方をしない作品なのが面白い
「年始の挨拶」
子供が幼稚園に上がる前に、子供を預けていたことのある画家夫妻の家に年始の挨拶に行く家族の話。
上流階級の仲間に入りたいという野心に溢れすぎている夫がやばすぎる人で、ドン引きしながらもちょっと好きになっちゃう不思議なキャラ。
ちょっと違和感を覚えつつ読んでいると衝撃の事実が明らかになるのだけど、70ページ以上あって、莉莉(リーリー)がメインになるのは作品のラスト8ページのみ。
この作品も全部が説明されるわけではないのだけど、彼女がどのように生きてきたのかを感じさせる描き方がとにかく上手い。
Posted by ブクログ
戦前から戦後にかけて上海と南京を舞台にした一組の男女の恋愛を描く。すれ違いや家の束縛、裏切りから互いに別の道を進むことになった曼楨と世鈞。戦後に再開したシーンは胸を打つものがある。
ヒロインの曼楨は都会的で自立しつつある当時の女性の代表のようだが、時代や旧弊、家族の犠牲者になっている。あまりに酷い仕打ちで読み進めるのが辛い場面もあった。
主人公の世鈞が結婚するのは、そうした自立した女性像とは反対にあるが、彼女もまた旧弊に囚われているに過ぎないのだろう。曼楨を裏切る悪役の姉も時代の犠牲者であり、物語に深みを与えている。
描写は淡々としており心理描写もあっさり目で、現代小説対比で物足りないところもあるが、互いの勘違いや言葉の掛け合いが滑稽でそうした点でも楽しめた。
Posted by ブクログ
1931年から‘45年、日中戦争で混乱した中国で上海を舞台にした男女の話で、お互いのすれ違いから恋愛が成就できなかった物語である。
人間は表に現す行動以上にその内側に何倍もの思考や意識や思惑を秘めている。この作品は心の描写も絶妙で、立場も性格も異なる人が織りなす関係が丁寧に表現されている。翻訳も手伝い、張愛玲の細やかで滑らかな文章は鮮やかで、彼女が類い稀な作家であることを痛感させる。
物語は上海で姉に代わって祖母と母と四人の兄妹を扶養する曼楨と、南京で妾宅生活をする毛皮商の父に置き去りにされた母と義姉と甥の面倒を見なければならない長男世鈞の二人を中心に展開する。曼楨は若いのに強い意志を持ち姉に代わり家族の経済負担を一身に担う。世鈞は今の生活を足がかりにして技術者として大成したいと思い唯一の友である叔恵宅に寄宿している。叔恵と曼楨は工場の事務所で机を並べていたが、
世鈞が同じ工場に務め三人の関係が始まる。やがて世鈞と曼楨が愛し合い結婚を約束するが、曼楨の事情で先延ばしになる。世鈞はルビーの結婚指輪を贈り早く結婚しようとする。
そんな矢先彼女は突然姿を消す。
世鈞はどんなに探しても手掛かりすらつかめない。
曼楨は姉の陰謀にはまる。自堕落で浮気性な亭主の気を引くために仕組んだものだった。彼女は強姦され一年間姉の家に幽閉される。妊娠し子供の誕生時に病院を脱出し隠れて生活をするが、子供や家族のことを考え、心は閉じたまま義兄と結婚する。
やがて母や姉は死に兄弟も自立し、十数年振りに世鈞と逢うことになる。世鈞もすでに親戚の娘と結婚し二人の息子の父親である。妻は叔恵に好意を寄せる。
彼らの再会はお互いの緊張のうちに始まる。
「世鈞、わたしたち、もうもとにもどれないのよ」
曼楨は長い不在を悔み、時の流れを受け入れようと
重い一言を発する。長編の最後のページで、心を揺する清らかで濃密な交情が繰り広げられる。
中国社会の前近代性は四千年の歴史で熟成されている。頑迷固陋、家族主義や外面の取り繕い、女性の地位、旧弊を生きる新世代の若者たちの苦悶は想像を絶する。
張愛玲が魯迅に連想される意味がよくわかる。
彼の短編『祝福』の祥林蒼のことが頭をよぎる。
社会に翻弄され蹂躙される曼楨の生き様が壮絶であればあるほど、読者は力が漲り勇気が喚起される。
後味が爽やかな傑作だ。