あらすじ
中国最大の読書サイト「豆瓣」で2022年国内フィクション部門第1位!
大学生から70代まで、それぞれ異なる漢字だが同じ「リーリー」という読みの名を持つ6人の女性たちがそれぞれに遭遇する、ありふれた、しかしのっぴきならない現実とは。
どの「彼女」が体験する痛みと哀しみにも共感が呼び覚まされる、現代中国の新鋭作家による話題の短編集!
●90 年代の旧正月、養親に遠慮して最も安い「座席なし」の切符を取り、ずっと立って帰省していた大学生・立立(リーリー)が大混雑の車内で体験したのは――「ただ座りたいだけなのに」
●仕事帰りに公営プールに通うのが唯一の息抜きとなっている王瀝瀝(ワン・リーリー)。ある日現れた一人の美しい泳ぎ手から目が離せなくなって――「スイマー」
●巫童(ウー・トン)が婚約者の帰省に同行した際、その地方都市で偶然会ったのは、初恋の相手の母親・姜麗麗(ジアン・リーリー)だった。思い出話をするほどに、彼の不在が浮かび上がり――「雪山」
ほか、全6編収録
【著者略歴】
張天翼(ジャン・ティエンイー)
天津生まれ。北京在住。
【訳者略歴】
濱田麻矢(はまだ・まや)
1969年兵庫県生まれ。神戸大学人文学研究科教授。中国語圏の現代文学を専門とし、なかでも性別表象に関心を持つ。著訳書に『少女中国――書かれた女学生と書く女学生の百年』、張愛玲『中国が愛を知ったころ――張愛玲短篇選』、同『半生の絆』など。
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Posted by ブクログ
同音異字でリーリーという同じ音の名前を持つ6人の女性を描く6つの作品を収録した連作短編
同じ名前の登場人物が出てくることで、リーリーという名前はあるけど、なんとなく匿名性が感じられて、彼女たちの人生は全ての女性たちの人生でもあるというような感じになっているのが面白かったです。
情景描写がものすごく上手くて、そこに人生が変わる瞬間を描き出していて、読んでいて彼女たちの人生に寄り添うような気持ちになる、とても良い短編集でした。
あと、人生はとても複雑で、色々なことが起きて、他人には見えない過去や思いを抱えてみんなが生きているというのがすごく感じられる作品でした。
収録作品ごとの感想を。
「座りたいだけなのに」
大学生の立立(リーリー)が休暇に実家に帰るため、ぎゅうぎゅう詰めの電車に乗る話。
最後がめちゃくちゃ胸糞の悪い終わり方だった。
混雑した電車の描写がものすごい臨場感。
「床の上の血」
再婚した母が暮らす家を訪ねる粒粒(リーリー)の話
ちょっとしたエピソードから母との関係が変化したことを感じさせるのがすごく上手い
「プール」
公共プールに通う瀝瀝(リーリー)は、プールで見かける女性にひそかに憧れていて…というお話
これはものすごく面白かった。
冒頭、かなりのページ数を使って、後世に21世紀のプールという施設の資料として残しても良いくらいに、公共プールのことを丁寧に細かく描写していて、それでも全然つまらなくないのが本当に上手い。
メインのストーリーが始まってからも、面白くて、主人公自身の大きな成長や変化を予感させるラストシーンが特に良かった。
「春の塩」
予期せぬ妊娠で出産をした儷儷(リーリー)。周囲がどんどん新しい生活をするための準備を整えていくことに戸惑いを感じるお話
この手の作品として、こういうラストのセリフを主人公に言わせるところに、作者自身のものすごい強い信念を感じました
「雪山」
恋人の友人の結婚式に参加するために雪山の見える街にやってきた女性が主人公。結婚式用の靴下を持ってこなかった恋人と一緒に訪れた店で、中学生の時の同級生の母親の麗麗(リーリー)と再会する
これが一番好きかも。
主人公と恋人がなんとなく同じ方向を見ていないのだけど、そこにミステリーの謎が解き明かされるように徐々に主人公の過去が明かされて、主人公の背負ったものの重さがずしりと感じられる展開に。
作品は主人公視点なのだけど、最終的にちゃんと麗麗がどのような人生を歩んできたのかを感じさせてくれるし、ラストに主人公が選ぶ生き方にものすごくこちらの感情がゆさぷられました。
こういう作品ってもっと過去を振り切って前向きに生きる展開が多いと思うのだけど、人生というものに対して楽観的な描き方をしない作品なのが面白い
「年始の挨拶」
子供が幼稚園に上がる前に、子供を預けていたことのある画家夫妻の家に年始の挨拶に行く家族の話。
上流階級の仲間に入りたいという野心に溢れすぎている夫がやばすぎる人で、ドン引きしながらもちょっと好きになっちゃう不思議なキャラ。
ちょっと違和感を覚えつつ読んでいると衝撃の事実が明らかになるのだけど、70ページ以上あって、莉莉(リーリー)がメインになるのは作品のラスト8ページのみ。
この作品も全部が説明されるわけではないのだけど、彼女がどのように生きてきたのかを感じさせる描き方がとにかく上手い。