『クリエイティブ・マネジメント』は、イノベーションについて書かれた本ではあるが、単なるチーム・マネジメントやクリエイティブの現場のための本ではない。「新しい社会の見え方をつくるための哲学書」であり、そして「問いを起点に再構築していく実践書」である。
この本の軸は、本文にも記載のある「新規事業とは、社会の再構築である」という本質にあると感じた。イノベーションは、プロダクトを作ることでも、サービスを運営することでもない。今ある社会の文脈に“疑問を投げかけ”、そこに新しい意味や選択肢を埋め込む営みこそが、創造の起点であり、マネジメントの役割だ。
本書が描くクリエイティブ・マネジメントとは、“つくること(新規事業)”と“まもること(既存事業)”のはざまで揺れる人々に、「意味のつくりかた」を届ける営みだ。それは、計画や仕様ではなく、見えない関係性や語られていない感情を耕すことで、創造の余白を生み出す仕事である。
何かを“決める”ことではなく、何かが“芽吹く”ように場を整え、関係性を編集し、問いを持ち続けることこそが、マネージャーの真価である。指示を出すのではなく、状況を“整える”。評価を下すのではなく、関係性を“耕す”。進捗を管理するのではなく、信頼を“育む”。そんな“見えない仕事”こそが、マネジメントの仕事である。
クリエイティブの現場において、問題はいつも曖昧で、解は途中で変わり、誰もが不安を抱えている。その中で、マネージャーの役割とは「決める人」ではなく「問い続ける人」であり、そして「編集し続ける人」である。言葉にできないものを信じる力。未完成なものに伴走する覚悟。プロセスをともに設計する対話。そうした一つひとつのマネジメントの行為が、創造の余白をつくり、人と組織の“意味の総量”を増幅させていく。それはもはや、「人を動かす技術」ではなく「人と生きる思想」だ。
そして、これまでのルールや構造に対して、「このままでいいのか?」と静かに問い直す。そこにこそ、事業が生まれる余白がある。著者が刻む「“正しさ”ではなく“らしさ”を育む」「個ではなく関係を見る」「問いかけで場の空気を変える」など、どれも実務に根差した強い言葉たち。それらが机上の理想論ではなく、「具体的な問いと行動」として提示してくれている。
この本は、イノベーションに挑む人たちにとっての、特に破壊的イノベーションに挑む全ての人人たちにとっての「思想書」として、一番最初に読むべきといえる。“人とともに、まだ見ぬ世界をつくる”ための、静かで力強い道しるべとなる。読み終えたとき、頭の中に残るのはただの“納得感”ではない。実際の自分のプロジェクトで試してみたいと思えるはずだ。