講談社MCR編集部・編『黒猫を飼い始めた』講談社文庫。
26人の作家による『黒猫を飼い始めた。』という書き出しで始まるショートショート作品を収録したアンソロジー。会員制読書クラブMRCで大好評のショートショート企画とのこと。
自分も半年前から黒猫を飼い始めたので、この本に大いなる興味を持ったのだ。
手を変え品を変え、様々なパターンの黒猫ショートショートが描かれる。何故かダイイングメッセージを描いたショートショートが3編あった。黒猫とダイイングメッセージは何か関連するものがあるのだろうか。
神秘的なところがある黒猫は小説の題材になりやすいのかも知れないが、エドガー・アラン・ポーの『黒猫』という傑作がある限りは、さらなる傑作を生み出すことは容易ではないだろう。
潮谷験『妻の黒猫』。初読み作家。妻を殺害し、黒猫を飼い始めた男の末路。殺人と黒猫と言えば、エドガー・アラン・ポーの『黒猫』を思い出す。
紙城境介『灰中さんは黙っていてくれる』。初読み作家。一種の推理小説のような、そういうことかと納得する作品。
結城真一郎『イメチェン』。最期の最期にタイトルの本当の意味と事の真相が解る。最年長の地下アイドルグループのリーダーとは何とも。
斜線堂有紀『Buried with my CAAAAAT.』。初読み作家。有り得ないシチュエーションで起きた異常事態が描かれる意味の解らぬ話。
辻真先『天使と悪魔のチマ』。プロバビリティの殺人計画の結末は意外なものだった。
一穂ミチ『レモンの目』。初読み作家。マンションで独り暮らしをする女性の部屋のベランダに毎夜、姿を見せる黒猫。その黒猫を介して小学1年生の少女との奇妙な文通が始まる。
宮西真冬『メールが届いたとき私は』。初読み作家。黒猫は味付け程度にしか登場しないが、微妙な男女の仲を描いた面白い作品だった。
柾木政宗『メイにまっしぐら』。初読み作家。奇しくも結城真一郎の『イメチェン』と似たような話だった。
真下みこと『ミミのお食事』。初読み作家。ゾッとするような話に驚かされた。可愛い黒猫をこういう話で使ってはダメかな。
似鳥鶏『神の両側で猫を飼う』。初読み作家。SFのような話で面白くはない。
周木律『黒猫の暗号』。『黒猫を飼い始めた』というダイイングメッセージとは面白い発想であったが、話はそれ以上膨らまなかった。
犬飼ねこそぎ『スフィンクスの謎かけ』。初読み作家。またもダイイングメッセージをテーマにした話。最後の意味が解らなかった。
青崎有吾『飽くまで』。初読み作家。『黒猫を飼い始めた。』というお決まりの文章はただ置かれただけで、ストーリーとは全く関係ないという卑怯な作品。
小野寺史宜『猫飼人』。そう来たかと思わず唸った捻りの効いた話。
高田崇史『晦日の月猫』。時代劇で黒猫を扱うとはなかなかやるなと感心。しかも面白い。
紺野天龍『ヒトに関するいくつかの考察』。初読み作家。黒猫の視点で描かれたヒトの世界。
杉山幌『そして黒猫を見つけた』。初読み作家。黒猫を使った悪巧みはものの見事に見破られる。
原田ひ香『ササミ』。何ともブラックな話だろう。ショートショートでは勿体無いくらいのプロットだ。
森川智喜『キーワードは黒猫』。初読み作家。またまたダイイングメッセージ。随分と手が込んだショートショート。
河村拓哉『冷たい牢獄より』。初読み作家。全く予想もしなかった真相に驚かされた。
秋竹サラダ『アリサ先輩』。初読み作家。黒猫に掛けられた謝礼金。
矢部嵩『登美子の足音』。初読み作家。不思議な黒猫。目も舌も歯も真っ黒で空を飛び、散歩が好きで、外から帰ると靴を脱ぐ。
朱野帰子『会社に行きたくない田中さん』。初読み作家。確かに猫は人間の心の底を見透かしたような目で見つめてくる時がある。
方丈貴恵『ゲラが来た』。初読み作家。かなり無理がある結末。これでは作中に登場する作家の三田状態ではないか。
三津田信三『独り暮らしの母』。独り暮らしの母親が飼い始めたという黒猫。以来、母親の様子が怪しくなる。なかなか。
円居挽『黒猫はなにを見たか』。初読み作家。大学教授の変死の真相に驚かされる。
感想はここまで。
自分も半年前から黒猫を飼い始めたので、その経験を書いてみる。
黒猫を飼い始めた。黒猫は2歳の雌で名前はアミという。
半年前に引っ越してきた我が家は周りに隣家の無い、ポツンと一軒家である。7月の初め、夕食後に窓を網戸にして本を読んでいると、外でガタッと音がするので窓に顔を向けると何やら黒い生物の姿が目に入った。もしや熊かと身構えると既に黒い生物の姿は無かった。何だと思い、網戸越しに外を見ると黒い生物が網戸に張り付いて、にゃあ~と鳴いた。自分は余りにも突然のことに猫という単語が声に出せず、うわぁっと叫ぶことしか出来なかった。
3日後、会社から帰ると外から猫の鳴き声が聞こえ、窓の外を見ると網戸に張りを付いた黒猫が庭に佇んでいた。翌日もやはり夕方に姿を見せてにゃあ、にゃあと鳴く黒猫に、腹でも減っているのではと魚肉ソーセージを上げると夢中で1本食べてしまった。
翌日も黒猫はやって来たので、今度は外に出て魚肉ソーセージを上げるとばくばく食べて、お礼のつもりなのか自分の足に頭を擦り付けて来た。妻が網戸に張り付いたのだから名前は網戸の『アミ』ちゃんにしようと言うので、黒猫には『アミ』という名前が付いた。アミちゃんは虫除けのピンク色の首輪を付けていたので、飼い猫が迷い込んで来たものと思われた。
それから毎日、アミちゃんは自分が会社から車で帰ると何処からか現れ、駆け降ると足元に擦り寄って来るようになった。日を重ねるにつれ、魚肉ソーセージはちくわに変わり、ついにはキャットフードになった。
しかし、アミちゃんは余り食が進まない様子で、よく見ると首輪のサイズが小さく苦しそうだった。首輪を取ってやり、しばらく様子を見て新しい首輪を付いてなければ、飼い主の元に帰っていない証拠だから我が家で世話をしようかということになった。
それからアミちゃんとの交流が毎日続いたのだが、7月の終わりからアミちゃんは姿を見せなくなった。心配する中、8月になってアミちゃんはビッコをひきながら姿を見せた。余りにも可哀想になったのでアミちゃんを保護し、生まれて初めての動物病院に駆け込んだ。
幸い足の骨には異常は無く、少し撚ったのかも知れないと診断された。その帰り、猫用クッションからゲージに猫トイレ、猫砂、爪研ぎ、キャットフードなどを買い揃え、ついにアミちゃんは我が家の一員となったのだ。
それから半年、アミちゃんは自分が家に帰ると必ず擦り寄ってきて、自分がトイレや風呂に入ればドアの前で必ず待っている。自分が読書していれば、胸の上に乗ってきて、尻を叩いてとせがみ、叩いてやると掌や顔を舐め回してくる。何時もご機嫌そうに尻尾を振るアミちゃんは我が家に来て、幸せを感じているのだろうか。
本体価格660円
★★★★