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  • 文法の魔法
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    文法の魔法

    小説・文芸

    -
    1巻1,760円 (税込)
    親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。 書き出しが印象的な名作はたくさんあるが、夏目漱石の『坊っちゃん』もその1つ。にゅっと勢いよく突き出される、自己紹介的な冒頭のこの一文を記憶している方も多いだろう。ところで、〈親譲りの無鉄砲で〉の〈で〉について、考えたことのある方はいらっしゃるだろうか。この〈で〉が、実は文章の魅力を担っていると言ったら不思議に思われるだろうか。 〈無鉄砲〉は、品詞で言うと形容動詞だ。「形容動詞+で」となる時は「原因・理由」または「並列」を表すことが多い。たとえば、   *仕事が大変で、今日は飲みに行けない。 ⇒ 原因・理由 *積極的で明るい人を採用したい。 ⇒ 並列 並列の場合は、前後の言葉のニュアンスを揃えたほうが自然に感じられる。 *あの店はにぎやか(ポジティブ)で味もいい(ポジティブ)。 ⇒ 自然 *あの店は不親切(ネガティブ)で料理もまずい。(ネガティブ)。 ⇒ 自然 *あの店は不便(ネガティブ)で安い(ポジティブ)。 ⇒ 不自然  こんな文も作ることができる。 *佐藤さんは勉強熱心で立派だ。 この「で」は「原因・理由」「並列」の2つのうち、どちらの意味を表しているのだろう? 「勉強熱心」も「立派」もポジティブなニュアンスがあるので、並列ともとれる。また「勉強熱心だから立派だ」と、理由を述べているともとれる。つまり「で」は、1つで、2つの意味を表すこともできるのだ。 親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。 この文はまさに「1つの言葉(厳密に言えば1つの活用)で2つの意味」が感じられる文だ。「無鉄砲だから損ばかりしている」とも解釈できるし「無鉄砲かつ損ばかりしている」とも読める。どちらかと言えば前者の意味合いが強いとは思うが、「無鉄砲」も「損」もネガティブなイメージの言葉なので、並列と捉えてもおかしくはない。この文のあとには「無鉄砲さ」ゆえに損をしたようなエピソードが書かれているけれど、よく読むと家庭環境に恵まれなかった不遇さが「損」の根幹にも思える。「親譲りの無鉄砲のため」とか「無鉄砲が災いして」に変えてしまうとリズムが崩れる。〈無鉄砲で〉の〈で〉によって、この一文には期せずして快さと広がりが生まれているのだ。   そう考えてみると、少しばかり面白さを感じるのではないだろうか。漱石はただ自然に書いただけなのかもしれないが、こうやって拡大してみると、なにげなく使っている言葉の中に、ちょっとした秘密が隠れているような気がしないだろうか。 母語話者にとって文法とは「知らずに会得し自分の中で育てた膨大なルール」だ。そのルールに着目し深掘りしてゆくと、謎解きをするようなワクワク感が潜んでいるのが分かる。知っている人の知らない顔を見たような気持ちになれる。文法のスリリングさをここから探検してゆきたい。 まえがきに代えて 〈親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている〉の〈で〉 夏目漱石『坊っちゃん』 〈大変親密になって了った〉の〈了った〉 志賀直哉「赤西蠣太」 〈蜜柑が凡そ五つ六つ〉の〈が〉 芥川龍之介「蜜柑」 〈国境の長いトンネルを抜けると〉の〈と〉 川端康成『雪国』 〈あの隔てのない語調で〉の〈あの〉 中島敦『山月記』 〈もうダメなんです〉の〈んです〉 太宰治『人間失格』 〈わたしは、夫をどうしても欲しいのです〉の〈を〉 松本清張「地方紙を買う女」 〈いつの時代でも同じの筈〉の〈の〉 筒井康隆『家族八景』 〈いいもの好きで、ないものねだりのところもありました〉の〈もの〉 向田邦子「手袋をさがす」 〈これは今となってはよくわからない〉の〈わからない〉 村上春樹「午後の最後の芝生」 〈それを辛がって訴える男〉の〈辛がって〉 田辺聖子「お茶が熱くてのめません」 〈生きるかなしみ〉と〈生きるかなしさ〉の違い 山田太一「断念するということ」 〈いっているその状態を「いく」と断定してしまう〉の〈いく〉 山田詠美『快楽の動詞』 〈僕に、新しい靴をプレゼントさせてほしい〉の〈させてほしい〉 小川洋子「薬指の標本」 〈すでにチェキの台紙に浮き上がり終えた面々〉の〈終えた〉 長嶋有「祝福」 〈アンタがあと10センチ身長高かったらホンマに好きになったかも〉の2つの〈た〉 又吉直樹『第2図書係補佐』 〈私は「治らなくては」と思いながら〉の〈なくては〉 村田沙耶香『コンビニ人間』 〈おいしい、と声に出した〉の〈に〉 柚木麻子『BUTTER』  〈エドワード・ホッパーの絵に描かれた人たちのように見ている側は寂しさを感じた〉の二義性 多和田葉子『研修生』 対談 谷口ジョイ×北村浩子「面倒くさいからこそ推したい文法」
  • 日本語教師、外国人に日本語を学ぶ(小学館新書)

    日本語教師、外国人に日本語を学ぶ(小学館新書)

    ビジネス・実用

    4.2
    1巻1,056円 (税込)
    「日本人が知らない日本語」再発見エッセイ。  日本語を学ぶ人は全世界で400万人にのぼり、今や空前の日本語ブーム。来日した留学生たちを指導する日本語教師の北村さんはこう綴ります。 <文法の教え方に悩み、説明し過ぎたと落ち込み、今日はまあまあうまくいったかなとちいさく自分を励ます、そんなことを繰り返している。あるときから、心の中にひとつの疑問が居座るようになった。 ――どうやったら「その先」に行けるんだろう?  継続して勉強していれば確実にうまくはなる。意思を伝えられるようになり、生活上の不自由はある程度なくなる。わたしが知りたいのは、その先だ。自分を表現できていると、どうしたら思えるのか、母語ではない日本語を「操っている」という感覚はどうやったら得られるのか。>(「はじめに」より)  流暢な日本語で活躍する外国出身者9名に根掘り葉掘り聞いていくと、「語彙も文法もひたすら耳から覚える」「単語を“採取”して調べてストック」「1年かけて稲盛和夫の著作を読む」など、独自の言語習得法が続々登場。さらに「汚い言葉が少ない」「『いいえ』は日常で使わない」など日本語の意外な一面も――。  言語を学ぶことの本質に迫る奇跡のダイヤローグ。 (底本 2025年1月発売作品)

ユーザーレビュー

  • 日本語教師、外国人に日本語を学ぶ(小学館新書)

    Posted by ブクログ

    日本語教師が、日本語を会得した外国人9人に、日本語を学習する上での苦労話などについてインタビューし、それを元に書かれた本。
    インタビューの相手に選ばれた人は皆各界で活躍する人ばかりで、また魅力的な人物なので、その内容はとても面白いものになっている。
    韓国出身で日本で芸能活動活動している人は、あるインタビューで、「韓国の親戚は私の活躍を見て喜んでいますよ」と答えた後、マネージャーに日本人は自分が活躍してるなどとは自分から言わないと言われ衝撃を受ける。
    イタリア語を母語とする人は、日本語を学び始めた時、名詞に男性や女性がないのに、どうやって会話が成り立つのか不思議だったそうである。
    ドイツ語を母国語とする人は、日本語の教科書の最初の方に必ず載っているのに、実際にはほとんど使われない言葉があるという。それは「いいえ」。(「いや」は使う)
    フィンランドでは、感動を伝え合うことがなく面白かったやおいしかったとは普段言わない。
    ウクライナ語やロシア語は感情を表す言葉が豊かでなく、そのためウクライナ人のある男性は日本語で声優をやることで新たな自己表現の手段を手に入れたと語っている。
    あるベトナム人は稲盛和夫さんの本を一年かけて読み通す。
    また、日本語に侮蔑語や賞賛する言葉が少ないのも驚きのようだ。代わりに贈り物などで感謝を表現したりすると思えるらしい。
    外国人が日本語学習を通じて知り得たことは、日本人にも面白いことばかりだった。

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    2026年09月06日
  • 日本語教師、外国人に日本語を学ぶ(小学館新書)

    Posted by ブクログ

    日本語教師になるために勉強中の私ですが、とってもよい学びになりました。
    日本語の具体的な教え方が書いてあるわけではありません。
    外国人が学んだ方法を具体的に考察するわけでもありません。

    ただ、日本語がすごくうまくなった外国人9人が、それぞれの考え方や日本語に対する思い、とかを話しています。

    独自の学び方をした方、ポジティブマインドでコミュニケーションを積極的に交わしていった方、もっと日本語を話したいと思いながら、間違いが恥ずかしくて話せない方など、いろいろ。

    やっぱり性格と合致した学習方法を確立した方は、やっぱり上達しているのだなということがわかる。そして、教科書で習う日本語で使わないものは多いし、実際にない場面もあるよね、という指摘も笑えた。

    「いいえ」はたしかに、使わないし、大家さんに旅行のお土産を渡すなんてこともあまり考えられない。
    現代はファミレスでもスーパーでもセルフ化が進んで、行政か病院、美容室くらいでしか会話がない、というのも納得。

    ほんとうに、日本語を学ぶ外国人はすごい! すばらしい!
    他文化に興味をもって、恥ずかしい思いや悲しい思いをしても挫けずに、日本語を学び続けようとしてくれている、そんな外国人の方をほんとうに尊敬するし、そんな人を支援できるよう、私も頑張ろうと思えました!

    0
    2026年09月01日
  • 日本語教師、外国人に日本語を学ぶ(小学館新書)

    Posted by ブクログ

    私も外国人に日本語を教えているが、日本に住む外国人に逆に日本語を教えて貰うこともあって日本語の辞書を引き直すことが度々ある。

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    2026年01月15日
  • 日本語教師、外国人に日本語を学ぶ(小学館新書)

    Posted by ブクログ

    とてもいいインタビュー内容で興味深かった。
    いろいろな人の日本語の捉え方や学びの深め方、自文化との向き合い方…それぞれなんだけど、どこか共通するものが見える気がした。

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    2025年12月27日
  • 日本語教師、外国人に日本語を学ぶ(小学館新書)

    Posted by ブクログ

    常々日本人の側から外国語を習得することについて興味があり関係の本をいろいろ読んできた。特に語学を勉強していてどの段階で言葉が「わかる」「話せる」と感じるようになるのかを知りたいと思っていたらなんと、外国人側から日本語にアプローチした人たちへのインタビューとは!とても面白かった。間に挟まれる日本語クイズにも新しい発見があり、自然に母語になった言葉なのに知らないわからないことがあることが驚きだった。(わりと簡単と思われる問なのに)
    へーと思った箇所がたくさんあったが、日本語を話すようになって一度も使ったことがないことばが「いいえ」という人がいて、なるほどそうかもと納得した。私も会話で使ったことがないかも。アンケートに回答するときぐらいしか目にしないような。あと外国人力士がなぜ日本語がうまいのかの説明を最後の章でされているのだけど、以前に読んだ同じようなタイトルの本よりも納得の答えだった。このインタビュー企画第2弾も読みたい。

    0
    2025年12月24日

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