はじめに にあるように、私たちにとって皮膚はきわめて身近な存在。ふだんは空気のように、その存在を意識する
ことはないが、ひとたびその機能が損なわれると、さまざまな不具合が生じる。
程度の大小があれど、もはや多くの幼児がかかるアトピー性皮膚炎によるかゆみをはじめ、擦り傷や切り傷による痛み、水虫(白)に
...続きを読む代表される真菌や細菌による感染症などが起きると、Q0[(生活の質)は著しく低下する。
全身火傷によって、皮膚の30%以上が損傷すると、ヒトは生命を維持することが難しくなるように、皮膚機能の著しい喪失は生死にもかかわり、生体維持に必須の臓器なのだ。
本書では、皮膚の構造・機能・役割から、かゆみなど皮膚の炎症や病気が起こるメカニズムとその予防法、また老化とともに起こる皮膚のたるみ・シミ・シワ等の衰え、白髪化や抜毛について、紫外線の有益面と悪影響の量側面について、未来の皮膚医療について等が説明されている。
少し専門的すぎるところもあったが、皮膚の機能を知る上では、好奇心を満たしてくれた。
免疫性リアクション(アレルギー)
皮膚への病原体や異物の侵入に際しては、搔破行動とともに免疫応答も発動される。最初に働くのが自然免疫系で、病原体や異物を感知した上皮細胞は炎症を誘導するサイトカインなどを分泌して免疫細胞を活性化させる。上皮細胞によって刺激を受けたマクロファージや樹状細胞が患部に集まってきた異物を捕食して排除する。
局所で異物排除にあたった樹状細胞はリンパ節に移動し、その異物の断片を免疫反応を制御するヘルパーT細胞やキラーT細胞に抗原提示する。これにより異物に対して抗原特異的に反応する免疫細胞が誘導され、誘導された免疫細胞は、次回同じ異物が皮膚内に侵入した際に速やかにこれを排除する。これが獲得免疫機構。
湿疹の多くは、獲得免疫機構によって引き起こされる過剰反応、アレルギーが原因で起こる。アレルギーは、通常は無害な物質に対して免疫系が過剰な反応をすることによって生じる。
湿疹(皮膚炎)の治療においては、まず皮膚に侵入してきた病原体・異物やバリア機能が低下した原因を突き止め、その原因を取り除くことが基本。薬物治療は、湿疹の原因を取り除くものではなく、湿疹によって生じるかゆみなどを抑える対症療法的なものが主体となる。
そして、アレルゲンが再度体内に入ると、ヒスタミンなどの化学物質をため込んだ肥満細胞の表面にあるIgE抗体とアレルゲンが結合することで、肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が大量に放出され、アレルギー症状を引き起こす。
花粉症
鼻や目を通じて表皮組織に侵入した花粉の成分は、樹状細胞と呼ばれる免疫細胞に取り込まれる。次に樹状細胞は、免疫系の司令塔と呼ばれる「ヘルパーT細胞」に花粉の成分情報を伝える。ヘルパーT細胞はさらに、抗体を産生する免疫細胞「B細胞」に、この情報を伝達する。すると、B細胞は花粉成分に特異的に結合する「IgE抗体」を作り、大量に放出する。更にこのIgE抗体は、「肥満細胞」の表面に取り付いて次なる花粉の侵入に備える。この一連のプロセスを感作と呼ぶ。
免疫応答の第一段階のプロセスである感作が成立すると、それ以降は迅速な免疫応答ができるようになる。再び、花粉成分が体内に侵入すると、この成分と特異的に結合するIgE抗体を持つ肥満細胞にくっつく。すると肥満細胞にため込んでいたヒスタミンなどの化学物質が放出され、その刺激で、鼻水やせきが出たり、目がかゆくなるなどの症状が現れる。これは、体内に入り込んだ花粉成分を排出するためであり、目がかゆくなるのも、目をこすることで目についた花粉成分を手を使って物理的に取り除こうとするためで、異物を速やかに本内から取り除くためのある種の防衛機構と言える。
常在菌
皮膚常在菌は、1cm2あたり数十万〜数百万個棲息しているといわれている。また腸内や口腔内にも存在し、1人あたりの腸内細菌数はおよそ40兆個といわれ、重さにして約1〜1.5kgとされている。
皮膚常在菌が皮膚疾患の症状悪化に深くかかわっていることは、まず間違いない。ニキビの病変部では、正常皮膚の脂漏部位に常在しているアクネ桿菌が過剰に増殖して、毛包壁の破壊や好中球浸潤、膿疱形成を促進している。一方で、アクネ桿菌は表皮角化細胞に作用し、ニキビの炎症を誘導している。このように、皮膚常在菌のほどよいバランスが崩れて多様性が失われると、炎症をはじめとするさまざまな不調が現れる。