非常に面白かった。
私の好きなアドラー心理学に通ずる「超実践的」な書籍だと感じた。
膨大な数の論文と書籍の内容を引用しており説得力がある。
引用した内容はうまく本の構成に落とし込まれており、スムーズに読め、理解しやすい。
専門的な内容が続くと少し読むのに疲れるが、実話を間に挟みながら話が展開されるので読んでいて飽きることが無い。
特にプロローグから巻末まで登場するジェッドのレジリエンスの高さには感動した。
ジェッドの人生を知れたことは私の人生にとってとてもプラスとなるだろうという確信がある。
翻訳も非常に素晴らしいと思う。
翻訳本は「直訳感」があって読みづらく感じる事の方が多いが、本書で読みづらさを感じることはなかった。
これは本当にありがたいことだと思う。
パート1 三分の二
第一章 PTSDの発明
■トラウマ
・「トラウマ」という言葉は17世紀から使われていた
・正式に論文で表記されたのは1889年ベルリンの神経科医ヘルマン・オッペンハイムの『外傷性神経症』という本の中で。
・代表的な症状名としては「鉄道脊椎症」や「砲弾ショック」など
・「ショック」という単語の意味からもわかるように「トラウマ」は「一時的な症状」と考えられていた(「甘え」とも思われていた)
■PTSD
・「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」が発見されたのはベトナム戦争後の『DSM-3』の中で。
・一過性の症状としての「トラウマ」や「ノイローゼ」に対して「PTSD」が画期的だったのは「一過性としていない」こと、「当人の臆病さや精神的弱さに起因するとしていない」ことだった。
・しかし次第に「PTSDの蔓延」という問題が生じてきた
・その要因の1つは精神医学者や心理学者などの調査対象は「精神に異常をきたした人たち」で「正常ない人たち」を含んでいないことにあった
→災害や事故などに遭った人は皆PTSDになるという誤解を生んだ
第二章 レジリエンスの発見
■レジリエンス
・「レジリエンス」とは元々森林その他の生態系の、火災や昆虫の大発生などの生存を脅かす事態に絶えず出会いながら長期にわたって生き抜く力を表現した言葉。
・その後恵まれない環境の子どもがその試練を乗り越え、通常の健全な人生を送れるようになる力を指すようになった
■9.11同時多発テロにおける大規模調査
・レジリエンスの3つの軌跡
①PTSDの症状が慢性的に続く軌跡
②次第に回復に向かう軌跡
③レジリエンスの軌跡
・3分の2の割合の人は③レジリエンスの軌跡だった
・今まで災害や事故後の診療では③の視点が欠如していたが、③にも目を向けることが大事だということが分かった(①と②を蔑ろにしていいという意味ではない)
パート2 ストーリーと予測
第三章 外から伺い知ることのできない世界
・同時多発テロを経験した3名の回顧録
・3名はその後それぞれレジリエンスの3つの軌跡を描いた
・回顧録から①〜③のどのタイプかの予想は専門家でも55%が当てられなかった
→レジリエンスのタイプの判別は非常に困難
・また「体験の激烈さ」と「トラウマ発症率」には弱い相関しかない(激しい戦闘を経験した兵士も81%は③レジリエンスの軌跡を辿った)
第四章 レジリエンスのパラドクス
・レジリエンスに関係ある特性は幾つか分かっている
①周囲の人からのサポート
②楽観性
③問題に対処できるという自信
など
・しかしレジリエンスを示すことを正確に予測することはできない
・予測は幾つもの予測因子の集合として見られるのが一般的だが、予測因子は半分も見つけられていない
・予測精度向上の良い解決方法…「パーソナリティのパラドクス(※)」に関する研究方法(*)を用いる
※人の行動には驚くほど一貫性がない(人は安定した性格特性を持つわけではない)
*「状況-行動プロファイル」と呼ばれる、特定の状況においては一貫した傾向を示すこと
・レジリエンスの因子となる良い行動もタイミングによっては悪い効果をもたらす
・例えばポジティブな言動は通常良い効果をもたらすが、ヒーローインタビューではポジティブな発言より謙虚さを持った方が良い
・また性的脅威を過小評価すると、脅威の察知や対処の遅れから性的被害を受ける可能性が上がる
・適切な状況において、適切な時に、適切な行動をとることが肝要
パート3 ゲームを主体的にプレーする
第五章 フレキシビリティ・マインドセット
…「自分は今直面している危機に適応できるし、前に進むためにやるべきことは何でもやる」という確信
≠レジリエンス…「トラウマになりかねない出来事の後も、良好な精神の健康状態を保っている状態」
・フレキシビリティ・マインドセットの3つの信念
①楽観性
②対処の自信
③チャレンジ思考
・過度な①楽観性は大きな失望に変わる可能性があり、レジリエンスを発揮するには②③も重要である
第六章 相乗効果
・②③もまたそれぞれ潜在的な弱点を持つ
・②対処の自信は強すぎると無駄な努力を無視して行動を変えることができない
・③チャレンジ思考は頑な過ぎると肉体的に疲弊してしまう
・大事なのは①〜③が集合して「フレキシビリティ・マインドセット」を形成し、足し算じゃなく掛け算となることである
パート4 基本的な仕組み
第七章 フレキシビリティ・シークエンス
①文脈感受性
②レパートリー
③フィードバッグ・モニタリング
・「①文脈感受性」…「自分に今何が起きているのか」「何が起きているのか」「これを乗り越えるために何をしなければならないのか」などの自問
・「②レパートリー」…問題に対する対処法のレパートリー
・多いに越したことはないが「適時利用」できないと効果的ではない
・「表現のフレキシビリティ」が豊かな方がトラウマの一定期間後の精神がより健康状態にあった
・「③フィードバッグ・モニタリング」…「自分はこの試練に向き合ったか」「それはうまくいっているか」「対応を調整する必要はあるか」「何か別の戦略を試すべきか」
・事実は変わらないが記憶は上書きできる
・事実に対して自分がどういうストーリーを描けるか
第八章 フレキシブルになる
・人間の「意識のリソース」は限られる
・例えば計算問題を解きながら読書はできない(それぞれ単体の行動はできる)
・フレキシビリティは「無意識」ないし「自動的処理」として経験的に獲得していくことができる
・「ヒューリスティック・ショートカット」…複雑な問題や意思決定を行う際に、迅速かつ効率的に答えを出すために用いられる、経験則や直感に基づく思考の近道のこと
・「ストループ・カラー・テスト」…記憶力テスト。赤色で「赤」と書かれた項目の記憶は容易。青色で「赤」と書かれた項目の記憶は困難。
・「レパートリー」を「ヒューリスティック・ショートカット」で使うことは意識のリソース削減の観点で有用であるが、その場その時に有用であるか「フィードバッグ・モニタリング」することも重要
パート5 リピート・アフター・ミー
第九章 自分自身に語りかける
・「フレキシビリティ・マインドセット及びシークエンス」は訓練できる
・「楽観性」→「最高の自己」…「すべてが最高にうまくいっている状態」
・「対処の自信」→「肯定的な文章を書く」
・「チャレンジ志向」→直面しているストレス源をチャレンジと捉えるよう指示しただけでも効果がある
・「レパートリー」→「if-then実行」…「もし〇〇が起きたら△△を実行する」を予め決めておく
・「再評価」→「セルフトーク」…「どんな状況にも良い側面はある。そこに注目することが大事だ」と自分に言い聞かせる
・「セルフトーク」は「フレキシビリティ・マインドセット及びシークエンス」のすべての要素に対して使える
・二人称語りの「距離を置いたセルフトーク」は自己のメタ認識にも役立つ(「おい、ポール。お前ならこれを乗り越えられる」)
・「将来はきっと良くなる、自分には能力がある、私はやるべきことをやっている」
第十章 そして世界的パンデミックが起きた
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