「星を継ぐもの」と「三体」に比肩する…という触れ込みだったので、両方読んだ身としてはこれは読んでおかねば…と書店で手に取って、うっ分厚い…!となる。
上は501ページ、下は558ページ。でも読みだすと早かった。
プロローグは2017年。チェンマイの寺でAIを使って株のトレードをする僧侶。もうこの時点でおもしろそうじゃないですか。そこに国立天文台から届く“門が開いた”というメッセージ。最期まで読んで戻ってくるとなかなかに深い言葉。
4人の登場人物まわりをメインに、それぞれの背景が丁寧に描かれる。4者4様のパートが、その先をもうちょっと読みたい!と思うようなところで切り替わるので、脳が刺激される感じ。うん。ドーパミンコントロールだね。
4者4様の魅力とは…
・ヂャンミン(NASA職員で中国共産党のスパイ) … 妻のイザベラはNASA職員で実はCIAのエージェント、娘はエルモに夢中の幼児エヴリン(能力は未知数)というスパイファミリーのパパ。いつエヴリンからパパと呼んでもらえるのか、それが本書の駆動力のひとつでもある(本当に) 二重スパイとして中国とアメリカの両方から、月でみつかった〈ルナボディ〉について問いただされる。その後も家族一緒だったり別行動したりしながらルナボディの真相に迫り、他の登場人物らに関わっていく糊のような存在。
・ジャム(タイの脳神経科学者でダイビングが趣味) … 2004年のスマトラ沖地震の津波で母を亡くしたことによるサバイバーズ・ギルトを抱え「死」の観察に魅せられた女性。日本のK大学の研究員として出会ったALSを発症した死刑囚の南井真一へ惹かれていく様子などは、社会派小説のようなほの暗い趣があって、スパイファミリーとの差に風邪ひきそうだった。でも好き。
・ミント(電動車椅子ユーザーのタイの少女でVTuberに夢中) … メタバース内のゲーム〈ディオマタス〉の実況をする人気VTuber〈地獄のベティちゃん〉に入れ込む少女。小6の課題をしているので12歳くらいかな。左側の手足が短く生まれたが、仮想空間のアバターを操作することで幻肢を感じるようになる。タイの少数民族モーケン族の少年ハルキという素敵なボーイフレンドがいて、彼はアメリカと中国の対立とルナボディの秘密に巻き込まれていく。ミントちゃんのパートはカラフルでポップで恋の甘酸っぱさでジューシーだ。
・コーツ(シカゴの成り上がり実業家で時の旅人) … 80年代のアメリカで頭角をあらわした実業家のひとり。顧問弁護士を従え、やり手の実業家らしい振る舞いが描かれるが、いまひとつどんな人間かつかめなかった。出生の逸話とか、アバターで入る電脳空間ではだれもがみな平等になれるとの考えや、高いところに上ると人はその位置エネルギーを開放したくなるとか、意識とは静止したデータではなく0から1との狭間に存在するとか、興味深い話をたくさんする。コーツのパートは海外SF的な雰囲気。言及のあるサイバーパンクの名作「ニューロマンサー」は読みたいと思ったまま未読なんだ…
この作品における「星を継ぐもの」的な部分の最大はもちろん「月で見つかるヒト的な何か」を解析するところ…だよね。中国の探査機が月面で発見した神秘小屋と名付けられた施設のなかに、透明なドームに入れられた数十体の座禅する人体的なものがあった。そのルナボディには頭部がない。なんて魅力的な謎!
「星を継ぐもの」と違うのは、この世界はあの、戦争を放棄した人類の世界ではなく、ほんの数年前のわたしの現実から分かれた世界なんだという事。スペースXもあるし、アルテミス計画もある。マインクラフトもあるし、コロナ渦も経ている。ロシアはウクライナに侵攻しているし、中国とアメリカは牽制しあっている。そんなところに、ルナボディが発見されるのだ。月面での対立で、すわ戦争か?みたいな危機もあったけど、そこはなんとかこらえて、ともかくルナボディとは何か…というところに注力される。2017年のオウムアムア(話題になっていたのに忘れてた…)とか、小学生の時に学級文庫で散々読んだキャトルミューテーションとか、ワクワクするネタが散りばめられていて、読むのが楽しかった。
それにしてもなぜルナボディには頭がないのか。……って、そんなこと考える???そして、やってしまうの???????!!!というところで前半が終わるのであった。思い返せばちゃんとヒントは散りばめられているのに、めちゃめちゃびっくりしたね。
後半は怒涛の展開が待っている。