これは翻訳ミステリ好きにとっては素晴らしいプレゼント。戦後に編纂された百近い翻訳ミステリ叢書群の中から、編者の意図が強くうかがえる、方向性が明確なもの、つまり個性豊かなシリーズについて、その魅力を掘り下げて語ろうとするものである。
もともとは雑誌「ミステリーズ!」に連載されたものなのだが、単行本
...続きを読む化に際して各叢書の発刊順に並べ替えられたとのことなので、翻訳ミステリの刊行・受容の歴史、その時代的なものが、より明確にうかがえるようになったと思われる。
編纂者やセレクションに携わった人たちとその編集意図、シリーズ全体の性格等を明らかにしつつ、収録作品のリストを付け、個々の作品の面白さ(特に今読んで面白いかどうか)を率直に語ってくれるので読んでいて実に楽しく、また、読んでみたいと思わせる力がある。現在では既に流通していないシリーズだし、出版社自体が廃業してしまっているところも多い中、時には推測も交えながらの紹介も微笑ましい。
紹介されている中である程度知っているのは、【クライム・クラブ】くらいだが、著者もこの叢書に魅せられていると言っているほどなので、特に当該叢書の紹介には力が入っており、高い熱量を感じる。
カラーの口絵で紹介されている各シリーズの本は著者自身の収集なのだろうか、背表紙一覧や書影は見ていて飽きないし、こうして一定の冊数が揃ったものを見るのはシリーズものの醍醐味の一つだと思う。
【海洋冒険小説シリーズ】と【河出冒険小説シリーズ】は書店で並んでいたのを見た記憶があるが、冒険小説にまでは手を伸ばそうとは思っていなかったので、一冊も持っていない。果たして刊行されていたときに出会っていたら、どれを買って読んでいただろう、そんなことを考えながら読み進めるのも良いと思う。
収録作品リストと、それぞれの本の紹介の中で触れられている書誌情報もすごい。最近でこそインターネットで調べればある程度のことまでは分かるようになったのだろうが、それにしても著者の熱心さには頭が下がる。特に、翻訳権未取得、抄訳、改竄、果ては原書の身元隠しまで行っていた【世界秘密文庫】の原書探求はすごい。
ブックガイドとしても、海外ミステリー受容に関する評論としても意義ある書籍で、翻訳ミステリに興味のある方には強くお勧めしたいと思います。
なお、連載終了後単行本化までの間の変化を踏まえ〔附記〕があって、シリーズの本や本文の中で言及されていた本の中で、新たに刊行された本の紹介がされているのだが、その多くが論創社の刊行らしい。おそるべし、論創社。
過去の作品の中には、今読んでも興味深いものもあるはずです。もしかすると、今は手に入らない紹介された本にまた出会えるかもしれない、そんな期待も持てそうです。