ドラフトという、選手にとってはあまり嬉しくないが、観客やエンターテイメントとしてはこれ以上ない制度のある野球で、スカウトの仕事というのはあまりよくわからないところが多い気がする。これがJリーグのように選手側が選ぶ権利があるのであればスカウト活動に意味があると思うのだが、野球では球団側が選ぶ権利がある。つまりドラフトでは極端な話をすれば、全く見に行かなかったり、挨拶をしなくても球団側が選ぶ権利があるわけで、スカウトのように人をとってくるという業務の価値がわかりづらい。
ところが本書を読むと、実際はドラフトが行われる前に様々なやりとりがあって、ようやく安心して球団側も選手を選ぶことができるということがよくわかる。確かにギリギリプロ野球に入れるかどうかくらいの選手であれば、どこが呼んでくれたって喜んで入るだろうが、トップクラスであれば、自分が選ぶことができないドラフト制の中でなるべく意思を出したいと思うのは自然の流れだろう。そういうわけで、スカウトと呼ばれる人間は、これはと思う素材には繰り返しチェックを入れつつ、同時に人間関係を作っていく。
本書は、そのスカウトとしてドラゴンズで長年働いた経験を著者が1冊にまとめた本だ。タイトルでは「星野と落合のドラフト戦略」と書いてあるが、これは結果的にドラゴンズで長く監督をしていた2人が星野と落合だったというだけであって、別に星野と落合に注目した本作りがされているわけではない。ただし、ドラゴンズの歴史上最も成功した監督である2人が、スカウトの現場においてもなんらかの形で主役になるというのは避けられないし、実際、著者がスカウトとして活躍していた多くの期間で、2人の監督が何らかの形で関わっている。
とにかく、全編を通じて人間臭さが溢れているのが本書の特徴で、スカウトの現場というのは、デジタル化が今ほど進んでいない時代においては、本当に人間関係が肝だったのだなぁと思う。特に昔は情報を手に入れるのが今よりもずっと大変だったわけで、掘り出しものを知るためには、その土地土地で、あるいは何らかのつながりを持っている人間との関係性を維持することが欠かせなかったのだろう。
おそらく最近は、情報を取るというところはかなりデジタル化されているのだと思うのだが、一方で、ドラフト戦略というものはFAとかポスティングによって、より難しくなっていることは間違いない。最近こういった過去のスカウトの回顧録のようなものを面白く読んでいるのだが、現役で今活動している方のスカウトの目線での物語というのも読んでみたいと思う。ただ、そういった裏の話ってなかなか出てこないから、あと20年とか30年とか、下手したらこっちの方が先に亡くなってしまうかもしれないんだよな。