本屋で見かけて。「一四一七年、その一冊がすべてを変えた」に似ていると思って読んでみたが似ていた。ルクレティウス再発見の代わりにアリストテレス再発見。ただし1417よりさらに壮大で上を行くおもしろさ。
中世は無知の暗黒時代と言われるがそうではなかった。アリストテレスの理性とキリスト教の信仰を調和さ
...続きを読むせる中世の努力が近代科学の道を拓いた。現代の人間科学(道徳、政治、社会関係など)の課題は理性だけでも信仰だけでも解決できず、中世のような理性と信仰を調和させる活動が今こそ必要である、という主張。
ドゥンス・スコトゥスやオッカム(の剃刀)によって理性と信仰が分離していく転換点が印象的。理性を追求すればいずれ神を理解できるとしたトマス・アクィナスに対し、いやいや神は理性では理解できない、信仰によってのみ理解できるとして分離した。キリストでなくロバでもよいとかわざわざ過激に主張するオッカムが好き。結果、早くも14世紀にはビュリダンのインペトゥス理論やオレームの地動説まで出ていた。日本ではまだ足利尊氏の時代なのに。
西洋だけが知の革命を成し遂げた理由に興味がわいた。イスラム文明のアリストテレス主義者は一般の知識人だったのに対して西洋文明のアリストテレス主義者は聖職者でもあったので社会変革に至ったとの説明があったが、それだけとも思えない。なぜ唯名論が実在論に勝てたか。また一神教でない中国や日本で知の革命はなぜできなかったか。