" アメリカ先住民ポタワトミの一員で生物学者のロビン・ウォール・キマラーは、ポタワトミに固有の言語は動詞が豊富で、ヒト以外の世界に生き生きとした感覚を与えると言う。たとえば、「山」という語は動詞であり、「山になる」ことを意味する。山はずっと「山になる」プロセスにあり、能動的に山でいるのだ。こうした「
...続きを読む有生性の文法」〔有生性は語が示す対象の生物としての性質を表す〕があるので、他の生物の生活を「それ」と形容したり、伝統的に人間に使用される概念を借用したりせずに記述することが可能になる。これに対して英語では、「他の生物の存在という単純な事実」さえ認めることができないと彼は述べる。もしあなたがヒトでないなら、あなたは自動的に無生物になる。つまり「それ」あるいは「ただの物」になるのだ。ヒト以外の生物の生活を理解するためにヒトにかかわる概念を持ち出すなら、あなたは擬人化の罠に嵌っている。「それ」という語を使うなら、あなたは生物を客観視することで別の罠に嵌る。――P.54"
" 菌類は驚異的な分解者だが、彼らの多くの生化学的な業績のうちでももっとも印象的なものの一つが、木材に含まれるリグニンを分解する白色腐朽菌の能力である。フリーラジカルを放出する能力にちなんで、白色腐朽菌がつくるペルオキシダーゼは「ラディカル化学(radical chemistry)」として知られる仕事をする。「ラディカル」〔ラディカルには「急進的」、(化学の)「基」などの意味がある〕はまさに言い得て妙だ。これらの酵素は地球上における炭素の循環を永遠に変えたのだ。今日、菌類による分解――その多くは木材の分解――が最大の炭素放出源の一つであり、一年につき約八五ギガトンの炭素を大気中に放出している。二〇一八年に人間が化石燃料を燃やして排出した炭素は、約一〇ギガトンだった。――P.216"
いままで特に強い印象をもっていなかった菌類というものに対して、ボルボックスやイスカに類するものを想像させる。そんな発想をしか得られない門外漢だが、非常に刺激的で読みやすい内容だった。
こういう知識に出会うと、中学・高校で、学問というものには現状最新というステータスがあることを教えてくれる教師に出会えなかったことが悔やまれる。これが世の理だとばかりに与えられた知識が暫定的なものにすぎないと教えられなかったことに。