自分の生まれ故郷としてのパトリア(祖国)と法律を共有する共同体としてのパトリア(祖国)がある。キケロ
イエナの戦い(1806)で、プロイセンはナポレオンに大敗。ティルジット条約でエルベ川左岸とポーランドを奪われる。ドイツは未だに領邦に分かれてバラバラ▼ドイツ民族は同じ国民(ネーション)だから団結しよう。ドイツ国民の基礎は、言語・大地・共通の記憶・慣習・ルターの宗教・ドイツ特有の教育・文学作品▼階級を超えた国民全体の教育が必要。教育こそ国家の中心的な機能。ヨハン・フィヒテFichte『ドイツ国民に告ぐ』1808
私がここで、フランス語の授業をするのは、これが最後です。普仏戦争(1871)でフランスが負けたため、アルザスはプロイセン領になり、ドイツ語しか教えてはいけないことになりました。これが、私のフランス語の、最後の授業です。フランス語は世界でいちばん美しく、一番明晰な言葉です。そして、ある民族(フランス人)が奴隸となっても、その国語を保っている限り、牢獄の鍵を握っているようなものなのです。フランス万歳! アルフォンス・ドーデDaudet『最後の授業』1873 ※言語を強調
※小説家「風車小屋だより」
国民とは人種ではない(純血の人種なんて存在しない、仏はゲルマン人に侵略され混血した過去)。言語でもない。宗教でもない。共通の利害でもない(利害を超えた感情がある)。地理でもない▼国民とは魂・精神的原理。過去の豊かな記憶の遺産の共有。過去の努力と犠牲・献身の賜物。共に苦しんだ記憶は人々を結びつける。祖先を崇拝するのは至極当然。偉人と栄光に満ちた過去。これが国民が拠って立つ社会資本。また、現在において「共に生きたい」という願望・共同で受け取った遺産を活用し続けようとする意志。ともに偉業を成し遂げ、さらなる偉業を成し遂げようとすること。これが国民であるための必要不可欠な条件(p.34)▼国民の意向こそが唯一の正当な判断基準。人間の意志は変化する。国民の存在は日々の人民投票(共同生活を続けることに同意・願望があるか否か)による。国民は永遠のものではない。いずれヨーロッパ連邦が国民に取って替わるだろう。しかし、それは我々の時代の定めではない。今のところ、国民はよいものであり、必要でさえある。諸国民の存在は自由を保証するものであり、もし世界に一つの法と一つの主人しか存在しなければ、自由は失われてしまう(p.37)。エルネスト・ ルナンRenan『国民とは何か』1882
※仏では言語や文化を共有する国民国家がすでに成立していたため、言語や文化をあえて強調する必要がなかった。一方、独は領邦に分かれていて国ですらなかったため、言語や文化による「まとまり」が求められた。
違和感と敵意をもつ、自分は所属しない別の集団out-group。こうした集団との関係は、協定で緩和されない限り、戦争と略奪の関係。自分たちの共同体のメンバー以外は潜在的な敵。自分の属する民族集団を優秀とみなし、無意識に自民族の価値観を基準にする▼法律で公式に制度化されているわけでもなく、道徳として抽象的に一般化されているわけでもないが、人々の間に共有されている慣習的な行動様式で、違反者に厳しい制裁が加えられる規範・習律がある(モーレス)。ウィリアム・サムナーSumner『フォークウェイズ』1906
法による結びつきに基づくネーション(西欧)。習慣・方言・血による結びつきに基づくネーション(東欧)。ハンス・コーンKohn『ナショナリズムの理念』1944
ナショナリズムは1800年代初めに生まれた邪悪な教義だ。この教義では、人間はネーションに分けられ、政府の唯一の正当なかたちはナショナルな決定だと考える。国家の権力行使の正当化、社会を組織化するために利用される。教義・イデオロギー▼邪悪な教義であるナショナリズムの起源は『ドイツ国民に告ぐ』フィヒテからだ。種族を強調した。ドイツ民族▼フィヒテの基礎になったのがカントの人間理解。個人が自由であるためには、意志の自律や自己決定の自由が実現されていないといけない。個人が自分自身だけで完成されることはあり得ない。個人は全体の一部であり、全体から個人の意味が引き出される。個人は自らを国家の意志に没入させることによって自由を見出す、とされた。エリ・ケドゥーリKedourie『ナショナリズム』1960
※ドイツの個別事例、ナショナリズムの一側面を記述したに過ぎないとの批判。
※ユダヤ人。バグダード生まれ。英国籍。LSE。
従来、ドイツの市民は共通の言語・文化・歴史を基礎とするナショナリズムで結びついていた。しかしナチズムの苦い経験。これからは自由で民主的な法や制度への愛着によって結びつこう。民主的な憲法がもたらす自由への愛着を通じて、ドイツの民主主義を維持しよう。憲法ペイトリオティズム。ドルフ・シュテルンベルガーSternberger1970 →ハーバマス
国民の属性を人種・言語・血統に求める。排他的。エスニック・ナショナリズム▼国民の属性を自立した個人の政治参加意欲に求める。包摂的。シヴィック・ナショナリズム。マイケル・イグナティエフIgnatieff『民族はなぜ殺し合うのか』1993
→リベラル・ナショナリズム