星野道夫の愛読書だったと知り読んでみた。
第1章「旅をする木」は星野道夫のエッセイのタイトルにもなっている。
一粒のトウヒの種子が大木となり氷や川にもまれながら長い年月をかけて朽ちるまでを描いた物語は、極北の壮大な自然やゆっくり流れている時間の流れを感じさせる。
ハタネズミ、オオカミ、ムース、ノ
...続きを読むウサギ、オオヤマネコ、カリブーなどの極北の動物たちが登場する。
それぞれの物語は動物の目線から描かれており、動物学者ならではの綿密な観察に裏付けられた、動物たちの描写が新鮮で面白い。
寒い冬に雪の中でぬくぬく過ごす時間、嗅覚や聴力を働かせて察知する危険、生きるために獲物を狙う緊張感、繁殖の時期には雄同士でぶつかり合うエネルギーなど…この読書時間は人間の視点を離れられる貴重な経験だった。
著者は極北の生態系のもろさを訴えており、自然を征服するべきものと考え破壊してしまった開拓者や政治を批判している。文化は生態学に基づいて生存してゆくべきだという主張は、自然と人間が共存していく社会を目指し始めた現代の原点となる考え方だと思った。