トム・ゴールドの作品一覧
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ビジネス・実用
Posted by ブクログ
7/5の夜。
仕事で遅くなって1時間も取れず。そんな中手に取ったのが、トム・ゴールド『月の番人』。絵本です。
本を開いた瞬間に、芳しいインクの香り。月が舞台で、空に広がる宇宙と散りばめられた星が目に飛び込んでくる。月で警官をつとめる主人公は、閑散とした街と、どんどん去っていく住民を見送る側にいる。コンビニが無人化し、住居ユニットがどんどん減っていき、主人公も耐えきれなくなりとうとう異動を願い出るが、受け入れられない。そんなとき、テイクアウト専門の無人ドーナツ屋がドーナツカフェに改装されることを知る。
遅れてやってきた者の取り残された感触。警官という職業を考えれば、住人が最後の一人になってでも必要な存在。そもそも、最後の一人ってその警官自身なのでは、とも思えるけれども。人の小ささと圧倒的に大きな宇宙と閑散とした月のイメージが何度も何度も見せられ、孤独な警官を見守る我々読者までも悲観的な気分にさせる。
でも。
そんなステロタイプな感想をひらりとかわし、じんわりさせてくれるのが、この作品なのだろう。意外な展開に驚いたけれども、とてもすんなりと受け入れることができた。それは、我々ももしかしたら同じ選択をするかも知れなく、その可能性を見たからだろう。それでも、ちょっと現実的なところを見ると、このまま忘れ去られてしまう危険もあるので、手放しで喜べないものではあるけれども。
トム・ゴールドの絵は淡々としていて、でも温かみがある。そして、人の顔はほぼ横顔しか描かれていない。だから、感情をはっきり見る機会がなく、半分は我々読者が補う余地を残してくれているのではないかと感じた。
上司から派遣されるポンコツのセラピーロボットもなんの役にも立たないままに送り返されるが、段差も感知できず転んで起き上がれなくなったり、すぐに充電切れを起こすなど、お約束すぎるドジっ子ぶりを発揮し、実に愛らしい。
月の最初の入植者の一人である老婦人による、月にあったかも知れない輝かしい未来像をおぼろげに感じつつ、本を閉じた。
翻訳を担われた古屋美登里さんの塩加減も絶妙で、この世界観に合った、過剰さの無い、素敵なお仕事でした。