フランスで9割以上が「臓器を提供する」と意思表示しているワケー「デフォルト効果」
心理的リアクタンスを回避するにはデフォルト効果も有効です。
望ましいと考えられる選択肢をデフォルトにして、異議がある場合に申告するように
設定しておくとリアクタンスを起こさずに、行動が促進されます。
このデフォルトを変えることで行動が大きく変わる例のひとつが臓器提供です。日本で臓器提供について統計(内閣府「移植医療に関する世論調査」2017年)を見ると、自分が脳死と判断された場合、臓器を「提供したい」「どちらかといえば提供したい」と回答した人は約4割いましたが、実際に運転免許証や保険証などの臓器提供意思表示欄に自分の意思を記入している人は約1割に過ぎませんでした。
一方で、フランスやオーストリアなどは臓器提供の実質同意率が9割以上となっています。「9割以上が臓器提供の意思を示すなんて凄い」と思われたかもしれませんが、これにはカラクリがあります。
それらの国では、臓器提供したい場合に特別に意思を示す必要はありません。むしろ、提供したくない場合にドナーカード(臓器提供意思表示カード)に記載する必要があるのです(これをオプトアウト方式といいます)。だから、何も記載がない場合は同意していると見なされます。
人はデフォルトを変更するときに「損失を感じたくない」という損失回避も働きますから、大きな不都合がない限り、人はデフォルトを受け入れやすいのです。実際、日本以外でも臓器提供の同意率が低い国では臓器提供をしてもよいと考える人が意思表明する仕組み(オプトイン方式)になっています。
ですから、利用を促進したい制度であれば、それをデフォルトに設定して反対意見の人が申し出る仕組みにすればいいのです。たとえば、千葉市は男性職員の育児休業取得率が9割を超えましたが、これはデフォルト効果によるものと指摘されています。千葉市では男性職員が育児休業を取ることを基本とし、取らない場合には自ら理由を申告するように運用を変更しました。
これまでの必要な人が申告する制度を180度転換させたのです。その結果、男性の育児休業取得率は劇的に上がり、9割を超えました。
このように、デフォルトを変更しただけで、利用が一気に進むことはたくさんあるはずです。ただ、当然、注意も必要です。リアクタンスを起こさずに、選択できるということはデフォルト効果を人の選択や行動を無意識にある方向に向ける手段としても使えます。心理的リアクタンスというバイアスをデフォルト効果という違うバイアスで解消している面もあります。
たとえば、3カ月無料の動画配信サービスに加入したものの、契約は自動更新がデフォルトのため、やめられずにズルズルと加入し続けてしまっているような例はみなさんも身に覚えがあるはずです。企業や行政にこのバイアスを滑に使われてしまって、結果、踊らされてしまっている・・・・・・というようなことが起きる可能性もあるのです。
家具メーカーIKEAから名づけられた「IKEA(イケア)効果」
イケア効果は、人が自分で組み立てた製品や手を加えたモノに対して、実際の価値以上に愛着や高い評価を与える傾向です。スウェーデンの家具メーカーのIKEA(イケア)に由来します。ご存じの人も多いと思いますが、イケアの商品は原則、自分で組み立てる仕様になっています。ですから、イケアの家具を組み立てることで家具に愛着がわくことからイケア効果と呼ばれています。
イケア効果を明らかにした研究では、労働や努力が価値を感じさせる要因となって、自分が手を加えたモノに対して高い愛着や評価を与えると結論づけています。もちろん、イケアの商品に限定されている効果ではなく、DIY (Do It Yourself プロではない人が自分の力で小物や家具を作ったり、壁紙や床の修繕・張り替えを行ったりするなどの活動)を対象にした実験でも、同じように作ったモノに愛着がわくことがわかっていて、イケア効果を実証しています。
イケア効果には続きがあって、同じ研究グループが、自分で手を加えたモノは経済的な価値観も変わることを指摘しています。労力をかけたモノは市場価格以上の価値があると当人は感じる傾向にあることを明らかにしています。