認知バイアス関連の本は、その「心理学用語と解説」というワンセットで主要なものを取り上げたという内容が多いが、本書も例外ではない。なので、毎回‟復習用“みたいな目的で読んでしまう。‟復習用”としては、読みやすく分かりやすくで最適な本。だが、つまり、全て「どこかで聞いたことがある内容」。考察本ではなく、紹介本。バイアスのカタログ。
人間の脳のキャパシティは昔も今も変わらない中で、デジタル化が加速して情報量が爆増し、注意力を失った人間はどうなっていくのか。思考する余裕がなくなっていって、「バイアス(=思い込み)」に囚われやすくなるのだという危機意識が本書の出発点だ。「情報氾濫の時代」に「思い込みに囚われた人類」が情報に踊らされる。強い印象を固い先入観で勘違いしたまま、大衆は世界を大きく動かしていく。バイアスは、人類のハックでもある。
例えば税金の納税率を上げるために未納者に通知書を作成する場合、そこに「あなたの近隣の90%の人々はすでに税金を納めています」と記載することで、納税率が向上し、納税の遅延も大幅に減少したという話。認知バイアスをうまく利用したケースだという。これは良心的というか必要な範囲での成功事例だが、当然、悪意が人間のバイアスを利用するケースもある。特に、私みたいに‟何物も信じない“というひねくれ者は大丈夫だが、純粋な子供が操作されやすく、スマホゲームなんかに夢中になっているのを見ると、非常に心配してしまう。バイアスだけではなく、報酬系から何もかも、身体機能も脳機能もハックされてしまっている。
人間は完全には合理的になれない。理想通りに自分自身を操れない。禁欲的にもなれないし、努力の人にもなれない。つい、目の前のケーキを食べてしまうし、一杯だけのつもりが二杯三杯とお酒は進む。バイアスに限らず、情報量によらず、人間の判断はその時の好みと気分次第なのだ。
だからこそ、認知バイアスの解説書を読むたびに感じるのは、「人間の愚かさ」そのものではなく、むしろ“愚かさを折り込んだ世界観”の必要性だ。大量の情報を浴びながら、熟考するよりも早く、だが粗く判断していく。次々、次々と。そうではなく、必要なのは立ち止まり、思考を減速させる事。頭の回転が速いという事が、いずれ弱点になる時代が来るかもしれない。