自分の未来観を変えてくれる強烈な一冊。SFではなく、英国のロボット科学者ピーターの半生の物語である。
2017年、59歳の時にALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断される。筋肉の衰えにより消化管や肺は機能しながらも餓死か窒息死することが多くのMND患者(正確にはその圧倒的な数を占めるALS患者)の死因
...続きを読むだと知った彼は、テクノロジーを用いて生き延びることを決意する。MND協会の理事に当選し、メディアを味方につけ、スコット- モーガン財団を設立し資金を集め、不屈の闘志で挑戦を続けていく。
「診断日から逆算すると、僕はこれから22ヶ月以内に死ぬことになります」「食べる、飲む、排泄する。これらは医療上の問題ではありません」「メンテナンス上の解決策があるはずです」
かくして彼は体内の”改修工事”、胃ろう、膀胱ろう、結腸ろうの「造設」を行い、気道に呼吸器を取り付けることを自ら提案する。さらには自らを実験台にサイボーグ化とAIとの融合を進めることも目指す。視線追跡や高度な予測変換技術、合成ボイスにより会話を行い、アバターが自然な表情を作るのだ。
ビジョナリーな彼の思考実験は、はるか先を見通している。
「ほとんどの人は、機械の体というものは、僕らのような人間が物理的世界に接触するためだけにあると考えている」「僕はそれと同じくらい重要な、第二の目的を想定している」「僕はVRの中でも感覚を持つことができるんだ」
随意筋がまったく動かない彼にとっては、物理的な世界でも仮想世界でも、得られる感覚は完全に同じことになるのだ。そして、IOTによりインターネットに接続されることになる膨大な数のデバイスやシステムも含めたモノが、麻痺した体の代用品になり得る。脳の可塑性の性質があれば、サイバースペースを自分の体の一部だと認識できるようになる、指を動かすのと同じ感覚でメールを送信できるはずなのだ。
「僕の新しい体は、あらゆる領域に広がっていく」「<ピーター2.0>はさまざまな場所に同時に存在する」「僕のペルソナのさまざまなパーツ ー 全体として”僕”を形づくっている小片の数々が、異なる場所に散らばっているのさ」
「これは、真のパラダイムシフトの前兆なんだ」「ごく近い将来に起きることだ」「MND患者の生き方が変わることによって、人間のあり方そのものが、永遠に変わってしまうんだ」
彼はさらなる先のことも見据えている。
「私が生きているうちに、AIで動く私のアバターが、私の想像が及ぶ限りの賢さを身につけたとしたら?そして、そのあとで私の寿命が尽きたとしたら?」
「私は死の定義を曖昧にすることによって、古びたタブーの数々を打ち破ろうとしている」
人間とは?意識とは?生と死とは?
否応なく考えさせられる。やはりシンギュラリティは近いのか。
ピーターのことはNHKのクローズアップ現代で報じられ、番組のHPでも紹介されている。