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  • 暴君 シェイクスピアの政治学

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    森新太郎演出・内野聖陽主演『リア王』関連企画のトークイベント、本書の訳者シェイクスピア学者の河合祥一郎とアメリカ政治が専門の三牧聖子同志社大学大学院教授の対談「独裁者の行く末」で紹介されていて、読みたくなった。
    原著は2018年刊で、謝辞に「…近々の選挙結果について心配…「私に何ができる?」…「何か書けばいい」…それで、そうすることにした。」「そして、選挙が最悪の予想どおりになってしまって…」とある。トークイベントで河合氏いわく、それ以上は詳述できないということで邦訳時にはあとがきや解説は付けられなかったけど、今だから言うけど、第1次トランプ政権に対して書かれたものとのこと。シェイクスピアも不安定な政治状況の時代を生きたが、第2次トランプ政権になってますます、これってい今の話じゃん! と感じる部分が増している…

    リチャード3世の悪辣さはみんなに認識されているのに、なぜ王位につかせてしまうのか?
    「分別のある大人たちがまわりにたくさんいるのだから、約束は守られ、同盟は大切にされ、重要な制度は尊重されるだろうと思ってしまう…」「ありえないと思っていたことが実際に起こっていると気づいたときには遅いのだ…」(p.85)「暴君は、選挙で選ばれるのだ。」(p.97)

    自ら望んだわけではないのにどんどん暴君になってしまったマクベス。「制度的な抑制はすべて機能しなくなっている。」(p.141)

    ロマンス劇にすら暴君が現れる。『冬物語』のリオンティーズ。「暴君には、事実や証拠などどうでもよい。自分が非難しているだけで十分なのだ。誰かが裏切り、嘲り、こちらをスパイしていると王が言えば、そうに違いないのだ。反対する者は噓つきか愚か者だ。」(p.161)リオンティーズは改心する。しかし、「…このやり直しを可能にしている出来事は、シェイクスピアの最も大胆にしてありえない幻想のたまものだ。すなわち、暴君の誠心誠意の、偽らざる、心の底からの後悔である。そのような心の変化を想像するのは、像に生気が宿るのを想像するのと同じくらいむずかしい。」(p.177)

    もちろんトランプだけではない。史上の、同時代の、様々な暴君が思い浮かぶだろう。そして暴君を存在せしめてしまうのが他人事ではないことも。

    ほかに『ヘンリー六世』3部作、もちろん『リア王』、『ジュリアス・シーザー』、『コリオレイナス』が詳しく取り上げられる。

    暴君の悪弊を知りながら、どの時代でも暴君を存在させてしまうのが人間、しかし一方で、グリーンプラットは、無名(役名がない)の存在にスポットライトを当てる。コーンウォール公爵がグロスター伯爵に拷問を加えるのを諫めて主人に殺される召使。「シェイクスピアは、一般人が暴君に対する防波堤になりうるとは信じていなかった。…ところが、『リア王』の名もなき召し使いには、まさに暴君に対抗する民衆の本質が備わっている。この男は黙って見守ることを拒むのだ。それは命懸けの行為だが、人間の品位を守って立ち上がるのである。ほんの数行の台詞しかない極めてマイナーな登場人物ではあるが、シェイクスピアの偉大なる英雄の一人である。」(p.190)

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    2026年10月17日
  • 暴君 シェイクスピアの政治学

    Posted by ブクログ

    読書会でおすすめされた本。
    1590年代から劇作を行っていたシェイクスピアは「どうして国全体が暴君の手に落ちてしまうのか?残酷で狡猾で衝動的で、明らかにふさわしくない指導者であっても、人々を魅了するのはなぜか?」という問題を戯曲を通して語った。本書はそんなシェイクスピア戯曲を通して、現代にも通じる社会問題について書かれている。

    当時のイングランドの統治者エリザベス一世で、わたしも歴史的には漠然とした流れしか知らなかったのですが、当時の社会情勢の危うさ、王位継承の複雑さ、カトリックとプロテスタント争いなども書かれているので世界情勢も分かりやすかったです。
    シェイクスピアの時代は「統治者を批判するのは謀反人」として罰則があったため、シェイクスピアも別の国、別の時代のこととして表現している。

    ❐シェイクスピア戯曲の暴君たち:リチャード三世、マクベス、リア王、シシリア王リオンティーズ(冬物語)
    『ヘンリー六世』では、薔薇戦争と呼ばれる争いが始まる。王のヘンリー六世はまだ子供で経験もない。ある時ヨーク公とサマセット公が言い争う。周りの人々は関わらないようにしていた。しかしヨーク公は「真の紳士として私と共にあるものはこの白い薔薇を摘んでくれ」、サマセット公は「私と共に真実の側につくものは赤い薔薇を摘んでくれ」と声を掛ける。この薔薇戦争の始まりって分かりやすいし戯曲としてはかなり見栄えがすると思う。
    戯曲としては、戦争の始まりが些細な個人の言い争いから、周りの人々を巻き込んだ勢力となり、赤薔薇白薔薇という象徴を持ち派閥の結束と憎悪を掻き立てる様子が書かれている(読んだことないけどそうらしい)。

    シェイクスピア戯曲のなかでも高名な「暴君」グロスター公リチャードは、ヨーク公の末息子だ。戯曲では、肉体不具、内向的な性格、母親からも性格がネジ曲がっていると嫌われ、それが権力欲に結びついて書かれている。
    なお、『リチャード三世』はシェイクスピア戯曲の中でも珍しくも母と息子の憎悪の関係が書かれる。父と子の関係は多いが、母と子はこの戯曲くらいだそうだ。そういえばそうかも!
    リチャードは敵を騙し討ちにして王位に就く。だが統治には全く向かなかった。リチャードは転落するばかりだし、戯曲登場人物としての魅力も失う。観客は、暴君が権謀術数で登りつめる様相は道徳を忘れて楽しむけれど、頂点に達するともう笑えないのだ。

    マクベスは初めは野心はなかった。『マクベス』冒頭では三人の魔女から「王になる」と予言されても恐ろしさを感じるくらいだった。それが野心に突き進むのは、妻から囁かれたものだ。一度その道に進むと「完璧」でないと気がすまなくなる。王を誅しただけでなく、自分に危険になるものを排除してゆく。そして「明日、また明日へと…」という、人生の完全な虚しさを味わうことになってしまう。

    初めから王座にいるもののが暴君となる戯曲もある。まずは『リア王』で、年を取って自分への忠義を試すために転落してしまう。どうやら舞台である紀元前八世紀のブリテンでは重要な決定は王によってなされていた。議会や政府もなく、教会や国会も王の権威には敵わない。
    リア王なんですが、もともとわがまま独裁者の側面があったと考えられます。それでもずっと王なので、戯曲冒頭でわがまま言い出してもまだ忠告する者がいる(リチャード三世やマクベスにはいなかった)。王に権力があり皆が従うのは王が正しく判断できる状態にあるからだ(正気)。しかしその後のリア王は正気を疑われて国は崩壊する。なお本書では「暴君なのはリアではなく、法律も人間としての道徳も無視する二人の姉娘」としてます。

    もう一人の王のは『冬物語』のシシリア王リオンティーズ。突然王妃の不義を疑い、投獄し、臣下の離反を呼び起こしてしまう。
    しかしこの戯曲では(読んだことないけど)、王妃もその擁護者である女性も、王へははっきり物申す。そして王は多くのものを失うが、「やり直し」が許される終わりを迎えるのだそうだ。

    シェイクスピア義挙国においての暴君は短命に終わる。彼らはどのように統治するかの考えもなく、支持者もいない、抵抗組織をすべて潰すことはできない。そのために短命。
    …これってでも現実では完全独裁政権って結構長いですよね…。
    そしてたいていのシェクスピア戯曲で暴君に抵抗できるのはエリート階級だ。シェイクスピアは一般人はスローガンに乗せられ、脅され、贈賄にも弱いので、暴君に抵抗できない(脅し、賄賂、はエリート階級でも同じでは?)しかしリア王には名も無い召使が王に対して「これこそが忠義」と言って諌める場面がある。それによって殺されてしまうし名前もない登場人物なんだけど、彼には「人間の真意を守って命懸けで立ち上がる」暴君に抵抗する民衆の本質がある。

    シェイクスピア戯曲で『ジュリアス・シーザー』は専制政治が起こる前に止めようとする動きがある。凱旋するシーザーの偶像化を防ごうとするのだ。しかし彼らの声は届かない。エリートにとって平民には名前はない。シェイクスピア戯曲でも、印象的な平民であっても名前がない、金持ち、エリートにとっては、平民が飢えるとしても市場の価格を落とすなら穀物を溜め込み腐らせたほうがよい。国家の経済システムが貧富のさを悪化させるものだった。(サド侯爵の本でありました。「楽しみで小麦を溜め込んで値を吊り上げて平民が飢え死にするのが楽しかった」)


    ❐暴君について
    ・政治は貴族のもので、彼らは平民など眼中になかったのだ。しかし平民の力を利用したら自分が権力を把握できると分かっている。社会の混沌こそが暴君誕生の舞台となる。
    ・暴君となる者は、かなり強引に敵を排除してゆく。暴君(になる者)自身も「こんなあけすけな仕掛けを分からないような馬鹿なやつがいるわけがない。でも分かったというほど大胆なやつもいない」ということで、周りも分かってるけど暴君(になる者)黙って道を開けている。
    ・暴君が求める「同意」は許可ではない。共犯者になれということ・暴君が権力の座へ登っていけば悲惨な事態となるが、喜劇的な側面もある。戯曲では、暴君、敵対する者、味方、それぞれに悪どさがあり、観客は彼らが受ける報いを楽しみにする。
    ・暴君は満足しない。望んでいた地位を手に入れても、欲求不満、怒り、不安はあり続ける。
    ・暴君は絶対的に孤独。心を許せるものはいない、誰も愛さない、自分が心でも誰も悲しまないと知っていた。(※実際のリチャード三世が戦死した時は、市民は嘆き悲しんだそうです)
    ・暴君には真実や証拠はいらない。自分が非難しているということで充分。
    ・暴君の元から逃げたものは、他の国外逃亡者と手を結んで侵攻軍を引き連れて戻って来る。歴史上成功例もあるし、失敗例もある。『リア王』のコーディーリアは国に戻ってきたが、権力や暴君抵抗ではなくて「ただお父様への愛のため」となってます。



    シェイクスピアはその時代に政治や王(女王)批判により残酷な処刑が行われたことも見てきたのだろう。そして観客となる大衆が感じる恐怖や、それでも物語に味わいたいスリルがなにかを図ってきた。そしてシェイクスピアは社会への不満分子でもない。そこで罰則を受けずに大衆が楽しめる表現を行ってきた。
    貴族階級の目に触れない平民だが、その普通の市民の人間的精神が暴君を倒す力だという考えが見られる。

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    2025年12月24日
  • セカンド・チャンス シェイクスピアとフロイトに学ぶ「やり直しの人生」

    Posted by ブクログ

    シェイクスピア作品とフロイト、ウィニコットの理論から人生の選択や運命を探求するお話。ジャンルがよくわからないが好みにはまって面白かった。
    訳註が多くやや読みにくいが、やたら勇気づけられる読後感でちょっとハイになる。時間をおいて再読したい。

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    2025年10月08日
  • セカンド・チャンス シェイクスピアとフロイトに学ぶ「やり直しの人生」

    Posted by ブクログ

    前半はシェイクスピア作品を例にしたセカンド・チャンスの話で、後半はフロイトの精神分析を例にしたセカンド・チャンスの話です。
    内容が難しかったですが、訳者のあとがきを読んで、少しですがわかったような気になりました。
    セカンド・チャンスがあるかどうか、それはわからないですが、もしもセカンド・チャンスがあったときに、それを有意義なものにするためには、今の人生を味わい一生懸命に生きていないとダメなんだ、と私なりに理解しました。
    訳者のあとがきに、このあとがきを読んでまた本文を読み返したら、新たな発見や理解があると書いてありましたので、いつかまた読み返してみたいです。

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    2025年07月27日
  • 暴君 シェイクスピアの政治学

    Posted by ブクログ

    アメリカのシェークスピア研究者グリーンブラットが、シェイクスピアの歴史劇が当時のイングランド(=エリザベス一世時代)の政治状況に対する諧謔を含めた批判であることを紐解きながら、実はこの本が書かれた(2018)当時のアメリカの政治状況を痛烈に批判しているという、二重構造。

    つまり、リチャード2世、ヘンリー6世、リチャード3世、マクベス、リア王、シーザー、コリオレイナスという暴君を主人公に据えた演劇はエリザベス朝の暴君性を批判したものであるといいながら、その暴君性についての表現は誰が読んでもそのまま前大統領に当てはまる・・・そして、日本の読者にとっては某首相を想起させる。

    「リチャードのことなど気にかけず、ほかの誰かがリーダーになるだろうとずっと考えているうちに、やがて手遅れの事態となる。ありえないと思っていたことが実際に起こっていると気づいたときには遅いのだ」(P85)

    「ずっと虚偽を連続して浴びせ続けると、疑い深い人たちは隅に追いやられ、混乱を生み、本来なら起こるはずの抗議の声も生まれない」(P100)

    「私たちは、悪党のとんでもない行動に何度も魅了され、普通の人間としての節度などどうでもいいとする態度に魅せられ、誰も信じていないときでさえ効果があるように思える嘘を楽しんでしまう」(P104)

    「どんなに狡猾に頭角を現そうと、一旦権力の座に就くと、暴君は驚くほど無能なのだ。」(P186)

    「シェイクスピアは巧みに描いたのであるー混乱の時代に頭角を現し、最も卑しい本能に訴え、同時代人の深い不安を利用する人物を。激しく派閥争いをする政党政治に支配された社会は、詐欺的ポピュリズムの餌食になりやすいとシェイクスピアは見ている」(P244)

    シェイクスピアの良き読者にとっても再読のきっかけになるだろう。歴史劇は読んでないという私には、本書と同じ河合祥一郎訳で読んでみたいと思わせてくれる。

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    2021年01月31日

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