かつて村は「人間集団」を意味する言葉であった。しかし、それが現在は「土地」を意味する言葉に変わったのは明治の半ばのことである。本書は、人間が帰属する村から分割され囲い込まれた村への転換を、豊臣秀吉の天下統一構想(分権から中央集権へ)まで遡り、位置付けようとする試みである。秀吉の構想の背景には16世紀
...続きを読むにおける世界史的な認識の変化(地球は有限であるという認識とそれに基づく領土観の変化)があった。つまり「村の近代化は世界史と地つづきであったといえる」(p.11)というのが、本書の見通しであり、「村の担い手」の視点からではなく、「統治の客体」としての村という視点から村の「近代」300年の歴史が叙述される。構成は以下の通り。
はじめに
序章 村概念の転換
第1章 村の近代化構想ー織豊政権期
第2章 村の変貌と多様化ー幕藩体制期
第3章 村の復権構想とその挫折ー明治初期
第4章 土地・人・民富の囲い込みと新たな村の誕生—明治中期
終章 「容器」としての村
種々面白い論点が提示されていて最後まで興味深く読んだが、とくに第2章では石高と実高の乖離問題を最近の経済史研究の成果(主として岩波の「日本経済の歴史」など)を踏まえつつ、なお幕藩体制下の生産量を過小評価している可能性を拭えないとしている点など、根拠も含めて示唆的である。また第3章の廃藩置県と村の復権構想が挫折に至る叙述も重要であると思う。
惜しいのは最初に提示されていた「村の近代化は世界史と地つづき」という視点が、後半少しわかりにくくなった点かもしれない。