無職・無年金の夫と築45年の横浜の団地で倹しく暮らす59歳の私。遠い島根の実家で独居する我侭で惚けた父の介護に行き来する日々。
そんな矢先、夫に癌が見つかる。
還暦を迎える女のリアルな日常が胸を衝く、切実小説。
ろくに育ててもらった記憶もない、自慢話以外は何も出来ない元公務員の養父(母の再婚相手
...続きを読む)と、陽気なお調子者を装っているが、仕事仲間の裏切りにあって以来、仕事どころか他人・社会と関われなくなってしまった、元クリエイターの夫。
冒頭のファミレスのシーンは吐きそうになるほど不快だったし、
養父:「おまえに迷惑はかけない。いよいよおいぼれても、おまえに迷惑をかけないだけの金はちゃんと用意してある」→ 無い(見栄と認知症による高額ショッピングや詐欺被害のため)
夫:「自分の身体のことは自分で分かってるんだよ。煙草くらい自由に吸わせてくれ」
→分かってない。結局肺癌になる。
という、二人のダメ男の王道パターンっぷりに腹が立って仕方なかった。
人はけっして自分の思いどおりは動かないし、その「ままならなさ」が誰かと共に生きる事という事なのかもしれないが、いい齢をした男の「頑なさ」ほど厄介なものは無い。
同僚との関わり・永久に終わらないんじゃないかと思うくらい複雑な役所の手続き・ネットで情報収集し過ぎて頭でっかちになる感じなど、「実録なのかな?」と思うくらいリアルな小説だった。これが介護か…。これが終末期医療か…。気が重くなる。
ただ、絶望ばかりでは無く、思いがけない助けや展開が用意されているのもまた人生なのだと思った。心穏やかに読める内容では無いが、読後感は悪く無かった。