一点惜しむらくは、他のレビューにもありましたが、LGに関する事項が多く、BTへの言及が相対的に少ないという点です。
が、例えば、ある人の割り当てられた性が女性で、性自認が男性で、性的志向が男性と自己認識している人がいた場合、この人は異性愛者でしょうか、ゲイでしょうか、という問いなどは、今まで自分も疑
...続きを読む問に思っていたのですが、ちゃんと答えてくれた本は自分にとってはこれが初めてでした。
これらジェンダーに関する調査研究の入門指南をしているところも凄いなと思いました。
この中で「13人に1人はLGBTは本当か?」などという疑問も取り上げられていて、興味深かったです。
それに関連して言えば、自分(独身中年男性です)はこうしたジェンダー問題に興味があるのですが、自分のまわりにLGBTの人がいません。
と言うと、「自分が気づいていないだけ」という反論はあって、それは正しいような気がするんです。
が、自分の性的志向がどうかということはかなり親密な話なので、そもそも性的マイノリティであることを打ち明けてくれるほど親しい仲になった人が自分にはいないだけかも、と思ったら、それはそれで結構切なくなりました。自分はそういうことを話してくれるだけ信頼に足る人間ではないのかもしれない。
こればっかりは本人が言わない限りはわからないことでもあります。
もっともそれを言えば、自分自身も自分の性的志向が異性愛者なのか、LGBTなのか、それともアセクシャルなのか、あまりよくわかっていなかったりもします。仮に自分がもし性的マイノリティだとしても、それを相談できるところがなければ、ひょっとすると墓まで持って行くかもしれない。そう考えると、墓まで持って行った人も数多くいるのはまちがいないような気がします。
それと、若い性的マイノリティ向けの相談窓口はだいぶ増えましたが、例えば中年以上になってから性的マイノリティだと自覚した人向けの相談窓口ってあるんでしょうか。発達段階からすると、若いうちに気がついて、ずっとそれで中高年を迎えることが多いとは思うのですが、最近のジェンダー研究では一人の人間の中でも性的志向はグラデーションで、人生の中でも変わることがある、というのが通説になりつつあるように感じられます。そう考えると、中年期にさしかかって気づいた場合、特に男性はミドルエイジクライシスになりやすいと言われますが、それに加えて性的志向に変化が出た場合、何らかのソーシャルサポートがないと、その方は生きていくのが辛くなってしまいかねないという問題があるように感じられました。
現在は過渡期で、なかなか難しい時代でもあります。でも、この本が少しでも多くの人たちに読まれ、当事者が救われたり、周囲の人の理解が進んでみんなが住みやすい世の中になることを期待します。