「何に投資するか」という資産配分の分散投資はメジャーになってきました。しかし、「いつ(何年に)株式エクスポージャーを持つか」という時間配分の分散投資については、未だ主流ではありません。それを踏まえて、40歳くらいまでは現在持っている資金以上に株式投資をするべきだ、という趣旨の本です。
著者の主張する「ライフサイクル投資術」とは、①{現在の保有資金+将来もらえる賃金+年金(+相続)の割引現在価値}×個人が投資するべき割合(60%程度)の金額を人生を通じてずっと株式に投資するべき、ただし②レバレッジ比率の上限は2倍、という2つから成るものです。例えば、割引現在価値が3億円であれば、1.8億円は人...続きを読む 生でずっと株に投資するべき、という主張です。現有資産が1.8億円を超えるまではレバレッジを掛けることになります。
その結果として、横軸を年齢、縦軸をレバレッジ比率とした時系列グラフは、
局面A:200%のレバレッジ(現有資産のすべてが株)
局面B:100%~200%のレバレッジ(現有資産のすべてが株)
局面C:100%以下の株式エクスポージャー(株以外の資産として著者は物価連動国債を推しています)
という3局面を示します(図表2.1、p62)。それぞれ、A:22~32歳くらい、B:32~37歳くらい、C:37歳以降~、というイメージです(注1)。
人間の資産には、①現在持っている資金、②将来もらえる賃金、③年金の3つが主にあります。投資家は目の前にある①の資産配分にこだわるものの、②③を考慮して資産運用をできていません。そこで、①にレバレッジをかけて運用します。著者は追証退場リスクを抑えるため、2倍のレバレッジに抑えて、特に30代前半までは運用するべきとしています。具体的な運用手段としては、S&P500連動ETFであるSPDRのDeep In The Moneyの3年先のLEAPコールオプションを薦めています。権利行使価格が現在の50%であるITMプレミアムは概ね原資産の50%であり、そのポジションはプレミアムの2倍であると考えられます。そのほかの運用手段としては、信用取引や証券担保ローン、レバ2倍ETF、CFDなども考えられますが、コストの安さやポジション管理の手間なども踏まえるとLEAPsがよいと指摘しています(注2)。
また、シラーPERが高い場合には先行き10年間の株のパフォーマンスは著しく低いため、株のポジションを下げる戦略の提案もしています。この戦略は、確かにパフォーマンスは上昇するものの、その「PERに応じたポジションをチューニングする」という戦略が、特に投資家のメンタルや持続可能性の面から実行可能かは検討するべきとしています(注3)。
なお、株式市場が上下した場合のリバランスの方向が、人生の局面に応じて違うという指摘も重要です。局面Aにおいては、レバレッジが上限に張り付いておりますので、破綻リスクを下げるため、株式市場に順張りのリバランスを行う(株価の低下に合わせてレバレッジを下げる、注4)ことが必要です。一方、局面B・Cにおいては、エクスポージャー金額を回復させるため、株式市場に逆張りのリバランスを行うことが必要です。
# 感想と注釈
注1:日本においては、個人向け国債の、変動10年が該当する印象です。もちろん米国の物国を買ってもいいともいます。
注2:日本においては、コールオプションの損益は上場株式の損益と通算できませんので、本当にオプションでいいのかは各人の状況に応じて調整するべきかと思います。また、日本の指数を原資産とするLEAPSは現時点では存在しないので、どうしてもS&P500となります。また、LEAPSの板の薄さは気を付けるべきかと思います。
注3:シラーPERが高まった1999年(1月時点で40.6)の後の10年の米株のパフォーマンスは確かに0%程度です。しかし、これはITバブルとリーマンショックの影響も拾っている数字であり、さすがに1999年のバリュエーションが2008年の市場に影響を与えるというのも直観的ではありませんので、そこまでこの図が大事とは思えません。事前に決めた株式ポジションを墨守して通常は株式市場を忘れておくのがよいかと思いました。
注4: 局面Aの順張りをどこまで毎日行うかはさまざま哲学があるかと思いますが、毎日行う場合、そのマニピュレーションはレバ2倍のブル投資信託と全く同じ運用戦略となります。レンジ相場においては減価するものとなります。
その他の感想:総じて、原典に忠実な和訳となっており、砕けた口調が続き、やや読みにくいですが、内容は非常に面白いです。絶版のようですが、再販してほしいです。
誤植:第4章p140第2パラグラフの「下げ」と「上げ」は逆のようです。