テレビ朝日で20年以上にわたり、30箇所以上の刑務所や少年院を取材してきた著者が刑務所内の最新事情を綴ったルポルタージュ。
新書にはしては、かなり分厚く、処遇困難者、高齢者への対応、塀のない開放的処遇施設、女子刑務所、医療刑務所、更生保護施設など、一般人が日頃知ることができない内部の様子や受刑者への
...続きを読むインタビューが満載されている。
特に、これでもかというほど次から次へと出てくるインタビューの問答については、正直、少しうんざりしたが、それを「社会を写す鏡」としての刑務所問題としてまとめ上げる著者の力量に感心させられる。
浮かび上がってきた最新事情、社会的課題について、自分なりに学んだ点を列挙しておく。
・三度の食事、布団で寝られる、社会に出て人間関係など我慢の生活を送るより受動的でいられる等の理由で、刑務所が居心地良く思われるということもあり、受刑者の再犯率は42%にも上る。
・刑務所でも高齢者が増え、老老介護や老人食、車椅子やシルバーカーなど、あたかも介護施設のよう。
・積極的な更生意欲があり、逃走の危険がない、対人関係に問題がないなどの項目を満たすものを収容する“塀のない刑務所”もある。今治市の大井造船作業場、網走刑務所の二見ケ岡農場、函館少年刑務所で漁業を目指す「船舶職員科」など。運転・機械操作など各種技能、国家資格の取得も可能。
・男性受刑者の数が減ってきている一方で薬物依存や窃盗などを繰り返す女性受刑者が増え、女子刑務所が飽和状態となる。これを受け、2017年、元男性用施設を移行して豊橋刑務支所ができた。
・かつては、一般医師との給与・待遇面での差、キャリアアップが難しい、兼業や研修ができないなどから医療刑務所の医師不足が課題であった。現在は兼業が認められ課題は解消の方向に進んでいる。
・北九州医療刑務所には心の成長不全による摂食障害の受刑者が多く集められている。逃げられない枠組みのある刑務所は年単位で治療できるという意味で一般病院では無理な治療が可能。
・服役を終え更生保護施設に入っても、そこでの人間関係や規律になじめず、指示にしたがっていればいいだけの刑務所生活の方が楽に感じ、再犯を繰り返す者も多い。女性の場合、窃盗と並び、再犯率が高いのが覚醒剤などの薬物事犯。