日米安保体制史
著:吉次 公介
岩波新書 新赤版 1741
55年体制は崩壊したが、サンフランシスコ講和条約体制はいまだ、続いたままだ。
冷戦は終わったが、日本は依然として、アメリカの極東防衛の要であり、沖縄は、中東へと続く、インド洋への補給拠点の中心であり続けている
戦後の日本の政治には、当然のことであるが、いつも対面にアメリカがいた。そして、日本にいるアメリカと向き合わなければならなかったのは、日米安保条約だ。
本書は、サンフランシスコ講和条約から、現代にいたるまで、日米安保条約とその運用に関する歴史である
気になったのは、以下です
■日米安全保障条約の締結
・アメリカは、ソ連を含めた全面講和とするのか、それとも、西側だけの、単独講和とするのか、英国と思案をしていたが、結局、単独講和を選択する
・その講和条約と対になっているのが、日米軍事同盟である、日米安全保障条約である
・本書の3つの要点
①日本の対米協力、日米防衛協力のありかた
②在日米軍基地の運用
③基地問題
・安保構造
①非対称性 日本は基地を提供し、アメリカは軍事力と防衛義務を負うということ
②不平等性 日本の国家主権や、対米発言権が充分に尊重されず、日本国民が不利を被っている
③不透明性 密約、国民への説明責任を果たしていない
④危険性 在日米軍の事故、犯罪のために、日本国民の生命、財産、基本的人権が脅かされる
1947.03 トルーマン・ドクトリン 冷戦下、日本の地政学的重要性を再認識した戦略
非軍事化、民主化の方針を転換し、赤軍に立ち向かうパートナーとして、経済復興を優先する
1947.09 芦田メモ 有事に米軍が日本に駐留する構想を記したメモ
1947.09 天皇メッセージ 昭和天皇が、沖縄を軍事基地として米国に長期間貸与することを提案するもの
1949.09 米英は、全面講和を放棄し、ソ連を排除した、単独講和の案を追求することを決定した
吉田内閣は、単独講和以外の選択はなかった
1950.06 朝鮮戦争勃発
1950.08 警察予備隊発足 治安維持組織であり、再軍備ではないと明言
1950.09 米大統領 NSC60/1 承認
①講和後も、米軍は日本に駐留する
②日本の自衛権・自衛力の保有を容認
③沖縄に対する排他的・戦略的支配を確保する
日本の安全保障上の要点
①再軍備の抑制、大規模な再軍備は適切ではない
②日米協定を国民の反戦感情を傷つけないものとする
③日本の安全保障に関する米国の責任を明示させる
④沖縄について、米国の軍事上の必要性は配慮するが、主権を日本に残す
1951.09 サンフランシスコ講和 西側49カ国と締結、日米安保条約にも調印
①米国が沖縄を信託統治する 日本の潜在主権は認める
②日本の自衛権、集団的安全保障を認める
③日本における米軍駐留
1952.02 行政協定
①駐留米軍の規模、駐留地点、期限のさだめなき全土基地方式が貫徹された
②基地の設営・維持のための物資、労務を免税とする
③米兵、軍属、家族の犯罪については、米側が裁判権を有するなどの特権の設定
さらに、指揮権密約の締結
①日本有事の際の指揮権に関して、米軍の司令官が指揮をとる など
刑事特別法、民事特別法など、米軍のみに適用される特別法の制定
日米安保体制とは、講和条約、安保条約、行政協定、密約、特別法 という5層構造からなりたっている
■改定への道
1954.03 相互防衛援助協定(MSA) 日本の再軍備へ向けた協定
1954.07 防衛庁・自衛隊の発足
①自衛のための必要最低限度の実力
②専守防衛に徹する
③戦力にはあたらない
④集団的自衛権の行使は、憲法上許されない
1956.10 日ソ共同宣言
1956.12 国際連合への加盟
1957.10 岸政権 国防の基本方針 防衛力整備計画を策定
マッカーサー大使は、日本中立化を阻止し、在日米軍基地の維持活用のために、安保改定へ
1960.01 新安保条約、地位協定が締結
新安保の特徴は、
①日本の防衛力の維持・発展の義務
②日本の施政下において、在日米軍を守る義務を明文化
③日本、極東の平和と安全のための、日本の基地の使用の許可
しょせん、旧条約のけずり直しであり、米軍の権益保護が核心
地位協定における米軍の特権はそのまま認められた
密約
①核の持ち込み
②朝鮮議事録、日米対等の証である、事前協議の無効化
■米軍被害とその補償
1953 特別損失補償法 米軍被害の補償
1953.09 NATO軍地位協定と同様の内容に変更
1950's 岸内閣 改憲、再軍備、安保改定、米軍削減 ⇒在日米軍は削減されたが、沖縄へ
基地問題とは
①軍事問題ではなく
②基地被害軽減、独立の完成という、政治問題
③基地従業員の解雇という、経済問題
1968.06 福岡板付で、九大電算センターにファントム墜落、福岡は保守革新と問わず基地移転を望んでいる
⇒政府は移転検討に着手する
1968.12 基地対策促進全国大会 神奈川県大和市長、石川県小松市長からも基地返還の政府批判が噴き出す
外務省は消極的であった 普天間移転、辺野古建設へ
1999.01 飛行ルートの変更など、一部軽減措置
2002. 沖縄少女轢殺事件 地位協定の運用改善 沖縄県は、さらに地位協定の改定を求めていたが、
■安保条約と国際情勢の流動化
1960.07 池田内閣 イコールパートナーシップへの賛同
1961. 二次防
米軍は、ベトナム支援のために、日本も保護しなければならないという、スーパー・ドミノ牌を構想していた
1964.11 佐藤政権 核の傘、核抑止力への依存を明確化
1967.12 非核3原則を発表
佐藤は核武装論者であるが、国民の反核感情を恐れた
米軍は、日本の横須賀、佐世保、座間、朝霞などの軍事設備をフル稼働させた
1970.12 沖縄住民がコザ事件を引き起こす
韓国条項、台湾条項、そして、核の再持ち込みの密約同意が、沖縄返還の条件であった
そして、沖縄返還を機会として、日本に負担分担の拡大を要求し承認させた
1971.07 キッシンジャーのニクソン・ショック 日本の頭を超えて、米中接近
1972.11 空母ミッドウェイの横須賀母港化、アラビア海への空母運用の長期展開が目的
1974.08 フォード政権は、日米関係の修復に乗り出す
新太平洋ドクトリン
日米パートナーシップ
1976.11 三木政権 防衛費 GNP 1% 枠 を閣議決定
■日米安保の適用拡大
1977.08 福田ドクトリン 米国のアジアから後退した真空を日本が埋めるというもの
1978ガイドライン
①日米合同演習
②洋上防空能力の日本の負担増
1979.10 三中業 防衛力整備計画
米国は、米軍と自衛隊が、極東あるいは、日本周辺という地理的制や宇を超えて協力するグローバル化を
要求してくるようになる
1983.09 大韓航空撃墜事件、五九中業に着手
1%枠を防衛費が突破、それを戦後政治の総決算と称した
1990.08 湾岸戦争 海部政権の三度にわたる経済援助も国際的な納得が得らえず
1991.04 ペルシャ湾への機雷除去派遣
1992.06 PKO協力法成立
1992.09 カンボジアPKO
1996.01 橋本政権
1996.04 日米安全保障共同宣言
97ガイドライン
防衛計画の大綱の見直し
欧州では軍縮が進んだが、極東では同水準の軍事力が維持された
①平素の協力
②日本有事
③周辺事態
■テロとの闘い
2001.09 七項目の措置 自衛隊の艦隊派遣
2001.10 テロ特措法 自衛隊が米軍の後方支援を
2003.05 イラク特措法
2006.05 再編実施のための日米のロードマップ
■日米安保の拡大解釈と集団的自衛権の許容
2010.11 新たな防衛計画の大綱
2011.03 トモダチ作戦
2012.12 安倍政権 戦後レジームからの脱却:集団的自衛権の行使容認へ
2014.04 武器輸出三原則の見直し、防衛装備移転3原則
2014.07 憲法解釈の変更、集団的自衛権の行使の許容
15ガイドライン
自衛隊の地理的制約なしの地球規模の米軍の後方支援
2015.09 国際平和支援法、重要影響事態法、武力攻撃事態法の改正、改正の自衛隊法、改正PKO協力法
加えて歯止め三原則を盛り込む
①国際法上の正当性:国連決議
②国民の理解と民主的な統制
③自衛隊員の安全確保
2017.01 トランプ政権 米軍駐留費用の負担増の要求
2017.09 環境補足協定
目次
はじめに
第1章 講和の代償―日米安保体制の形成 一九四五‐六〇
第1節 日米安保体制の成立
第2節 「独立の完成」をめざして―安保改定への道
第3節 安保体制の「危険性」-米軍基地問題の始まり
第2章 米国の「イコール・パートナー」として 一九六〇―七二
第1節 「イコール・パートナーシップ」の形成
第2節 沖縄返還と七〇年安保
第3節 国民的「十字架」としての米軍基地問題
第3章 日米「同盟」への道 一九七二―八九
第1節 日米「同盟」への起点
第2節 新冷戦と「同盟」路線
第3節 基地をめぐる本土と沖縄のねじれ
第4章 冷戦後の課題 一九九〇‐二〇〇〇―安保再定義と普天間移設問題
第1節 湾岸戦争と安保体制
第2節 安保再定義と97ガイドライン
第3節 激変する米軍基地問題 -普天間移転問題の始まり
第5章 安保体制の「グローバル化」 二〇〇一‐一八
第1節 「テロとの戦い」と「世界の中の日米同盟」
第2節 「安保構造」への挑戦と挫折―民主党政権下の安保体制
第3節 集団的自衛権と安保体制-本格化する「グローバル化」
おわりに
あとがき
索引
関連年表
巻末資料
日米安全保障条約(旧)
日米安全保障条約(新)
米軍の事故について
在日米軍施設・区域(専用施設)の件数及び面積の推移
主要参考文献一覧
ISBN:9784004317418
出版社:岩波書店
判型:新書
ページ数:272ページ
定価:860円(本体)
2018年10月19日第1刷発行