ファラデーの『ロウソクの科学』は、ずいぶん前に、少しだけチラ見したことがあった。ノーベル賞を取ったりした、色んな有名な科学者が、中高生時代に、その面白さにのめり込んだ、といったような記事を見たからだったと思う。
ただ、その時に感じたのは、「これ、けっこう難しくないか?」という印象である。中学生の頃か
...続きを読むら、これを面白いと思って読んでいた人たちは、やっぱり初めから科学が好きで、これにのめり込めるくらいには、頭が良かったのだなあ、と感じた記憶があった。
今回、この本を読んで、元の『ロウソクの科学』も再読してみたいな、と思う。
ロウソクの科学で紹介される実験で明らかにされるのは、どれも中学生くらいまでには学ぶような、比較的簡単な実験ばかりだ。ロウソクを燃焼させると、水と二酸化炭素が発生する。空気の中には、酸素と窒素がある。などなど、結論だけを並べれば、常識に近く、退屈である。
ただ、ファラデーの面白さは、そうしたものを、今まで考えてもみなかった簡単な実験で「見せる」ことにある。
個人的に最も印象に残っているのは、序盤で紹介される二つの実験だ。
「熱のありか」という実験では、ロウソクの火に厚紙を当てると、紙は円形に焦げて、実は、炎の中心には、それほどの熱がないことが分かる。
「ロウソクを引く」実験では、曲がったガラス管の先をロウソクの中心部にあてると、反対側の出口に火がつき、炎の中心部には、燃焼する気体が生じていることが分かる。
この二つの実験は、とても簡単なものだが、全く知らなかった。ロウソクに火がつくという、誰でも知っているような出来事も、言われてみると、その炎がどういった仕組みで燃えているのか、よく分かっていない。そうしたことに、本当に簡単な実験で気がつかせてくれる手つきが、楽しい。
『ロウソクの科学』は元々、1860年のクリスマス、イギリス・ロンドンの王立研究所で行われた青少年向けの講演録だという。小中学生くらいの子どもたちが、クリスマスの日に、研究所に集まり、科学の講演を聞く。しかも、そこには、研究者も含めた多くの大人もいた。
今では到底考えられない状況だが、当時の子どもたちにとって、それだけファラデーの見せた「科学」が、「見てみたいもの」だったのだろう。そして、それは、子ども騙しではなく、大人が見ても楽しいものだった。
その様子を想像するだけで、少し嬉しい気持ちになる本だった。