ちょうど経済学を専攻して一番中央銀行にも関心が向いていた時期の総裁の著した大著で、学生時代を懐かしく思い出した。
著者が日本銀行に入ってからのキャリアの一部、総裁となってから取り組んだ数々の課題についての二部、中央銀行の使命についての三部からなる。
デフレという立場によって意味が変わったりフレーミン
...続きを読むグ効果のあるキーワードを使わないようにしていたが、このワードが国民にもたらした影響により日銀への信頼が薄くなると金融政策の土台が揺らぐために言及せざるを得なくなったりといった、中央銀行の発信が持つ大きな意義。他にもナラティブとして、失われた20年がある。人口動態の変化が存在する中で成長パフォーマンスはむしろ健闘した方だが、この言葉により根拠のない悲観論が生まれてしまう。人口動態の変化は中長期的には一人当たりGDPの成長に対して中立だが、短期的には様々な調整がスムーズにいかないことによるマイナスの影響がある。
東日本大震災時の迅速な対応はどんな組織においても不測事態への対処法として勉強になる。日本国民の円高の忌避。高橋財政が現代には参考にならない理由。公共財ではなく非排除的かつ競合的なコモンズ的財の金融システムの安定。金融政策は本質的には時間を買う政策であり、その間に社会として取り組むべきことに取り組む必要性がある。
10年を経て変わったこともあるが、変わらずに抱え続けている問題もある。今後も日本銀行には淡々と使命を果たしていってほしい。