社会課題をうまく切り取って、自社が提供できる価値として定義できれば、いくらでもビジネスは立ち上がる。しかも、社会課題が大きければ大きいほど、そこから生まれるビジネスも大きくなる。
そう考えると、課題先進国と言われる日本は、何と素晴らしいビジネス機会に恵まれた国なのかとすら思えてくる。
とはいえ、社会課題の解決は、実践するとなると実に難しい。社会課題の解決を掲げて事業創造の検討を始めてみたものの、あまりの難しさに挫折してしまったという企業も数多い。
社会課題の検討という行為が難しい理由はいくつかある。
まず、「自社の属する業界を超えて考えることが必然となること」。これだけでも何かの業界に属する立場の人からすると難易度が高い。
次に、「色々なプレーヤーの力を借りる必要があること」。受け身の企業が多いこの世の中では、社会課題に共感してくれたからといって、その後を自発的に考えてくれるパートナー企業は少ない。少なくとも最初は、パートナー企業のメリットまでも設計しなければ乗ってきてくれない。自社だけでも大変なのに、他社のことまで考えながら進めるなんて至難の業だ。
「自社ビジネスへの結びつけが簡単でないこと」も理由の一つである。自社のメインの既存事業にすぐ結びつくならともかく、そんな簡単にいくわけがない。大抵は、強みを読み替えて初めてつながるのだが、どう読み替えるのかが分からず苦労する。しかも自社とはいっても、他部署を巻き込むのは、他社を巻き込む以上の苦労がある。
「そこまでの苦労をする必要があるのか」と思うかもしれない。ただ、ビジネスというのは、生み出す価値への報酬である。大きなビジネスを狙うなら大きな価値提供が必要だし、大きな価値は大きな課題を解決するからこそ認められる。
だから、せめて業界リーダー企業には、既存事業の競争ばかりではなく、社会課題を解決する大きな事業にトライしてもらいたい。そうでなければ、我が国の将来もない。
実行するー「事業創造における実行」は構想や戦略よりも難しい
そして実行。ここに至っても、まだまだ想定外のことが起こる。連携先の企業が突然の事情変更を申し入れてきたり、担当者が変わって話が全く噛み合わなくなったり、といったことは日常茶飯事である。「そもそも」論から議論が再燃することもある。政府にしても、政権交代や省内の人事異動で、全てがいったん白紙になるといったことが実際に起こる。そういうときでも、粘り強く実現に向けて努力し続ける必要がある。
しかも、マーケティングや営業戦略などの従来型のビジネス戦略と違って、戦略、構想に戻って検討し直すこともある。そういう意味では事業創造における実行は、構想や戦略のステップよりも難しい。
敵は外部だけにあらず。ビジネスプロデュースに順調に取り組んでいたら、、推進役になってくれていた役員が交代したり、経営企画部が中期経営計画を見直したから来年から予算を縮小しますと言ってきたりするかもしれない。
そうでなくとも、事業創造は社内から目をつけられやすい。日の目を見るまでに3年かかるのはむしろ普通だ。
そのためにも、KPI(Key Performance Indicators:重要業績評価指標)を設定し、その点について経営トップや連携企業と握っておくことが大切になる。事業創造においては、不確定要素が多いため臨機応変さや柔軟性が大切になるが、何でもかんでも変えていいとなると、大事なことが先延ばしされてスピードが失われたり、売り上げや集客数などの目標値が次第に下がってしまったりということが起こる。こうした危険を排除するために、重要な数値やタイムスケジュールについては、あらかじめKPIを設定しておく。
KPIは定量的なものが望ましいが、すべて数字にできるとは限らない。大事な事項については、多少定性的であってもよいから、後で評価可能になるように、設定しておくのがポイントだ。例えば「〇年〇月までに3社とのアライアンス交渉に着手した状態にする」などである。
KPIとは、「経営者がビジネスプロデューサーを縛るため」にあるのではなく、「ビジネスプロデューサーを周囲(時には経営者)から守るため」にある。
その意味で、一番よくないKPIは「3年後に黒字化」といったものである。まず3年というのは長すぎて事業推進の現場にとって何の目安にもならない。また、経営者や周囲から見ると妙に分かりやすく非難の基準にしやすい。さらに、利益は投資をやめることで捻出できるので、黒字にしたいがために、つい投資をやめてコスト削減に頼ろうとするなど、事業創造からすると、とんちんかんなことをする羽目に陥ったりする。