ユーザーレビュー おクジラさま ふたつの正義の物語 佐々木芽生 【動機】 ・捕鯨にまつわる対立の歴史・概要を知りたくて 【感想・思ったこと】 ・めちゃくちゃ面白い!!!!! ・クジラの話にとどまらない。 - 捕鯨にまつわる問題と対立の概要と本質が掴める - 鯨を軸に見る、歴史・宗教・価値観・メディア論 - なぜ人は争うのか?考えさせられる --- ・「強...続きを読むき者」は「弱き者」の、声に耳を傾ける責任がある。 ・「弱き者」は「強き者」に、声をあげる責任がある。 ・声を上げなければ対話は不可能。特に相手が強者の場合なおさら。 ・自分の意見を相手に伝える重要性と相手の意見に耳を傾ける重要性。 ・情報は発信しなければ伝わらない。 ・情報発信・メディアの威力。感情を煽動する。 ・「クジラ・イルカは世界の海を泳ぐため日本だけのものではない」というロジックは確かにと思った。 ・対立するから、対立する。 ・読中に「キリスト教思想を基盤に持ち、現在国際社会で力を持つ欧米人は、自己中心的で独善的である」というステレオタイプを、深いところで実は自分も持っていると気が付かされた。本来「⚪︎⚪︎人は△△である」という一般化はできない。一人一人多様。読中、ジェイさんが登場した時にハッとした。 Posted by ブクログ おクジラさま ふたつの正義の物語 佐々木芽生 歴史や伝統、食文化はイデオロギーやアイデンティティにも繋がる。 イデオロギーやアイデンティティの対立。ネット上で見受けられる論争、最近では『温泉むすめ』であるとか、に余りにも似ている構図。 感情は無視できないが、感情だけでは暴走してしまうこともありえる。理論と考察は欠かせない。どちらが正義か、どちら...続きを読むが正しいかを簡単に決めつけるのではなく、考え続けることが重要。 映画化もされ、中立的な視点と立場で和歌山県太地町の問題が書かれている。 Posted by ブクログ おクジラさま ふたつの正義の物語 佐々木芽生 いや、これは大変な力作にして名著。感情的になることなく、個人の偏見や思い込みに走ることなく、反捕鯨・反イルカ漁と漁民や反捕鯨と対する側の状況、主張、活動を大変に公平に取材・考察され、各テーマごとにドキュメンタリー的にまとめられていて、この問題についての理解に大変に勉強になった。 捕鯨問題は異文化理解...続きを読むの難しさ…そこに政治的思惑や特定の思想を旗印にしたプロパガンダ(さらにそれがまた真摯なものから実はビジネス…金儲けのためだったりと玉石混交)が入り込んで来ると尚更問題は複雑骨折化…の典型例にして縮図。海外に住み、国際ビジネスに関わる者として大変に考えさせられます。 Posted by ブクログ おクジラさま ふたつの正義の物語 佐々木芽生 奇妙な題名と表紙のイラストが、なんとなくユーモラスな雰囲気を醸し出しているが、いたって真面目な、そして極めて有益な本である。イルカを含む捕鯨について日本が強く非難されているのは周知のことだが、捕鯨を糾弾する側も、維持しようとする側も、それぞれの立場で鯨を大切にしていることが、本書を読むとよくわかる...続きを読む。 捕鯨に反対する側は、鯨、イルカをその知能の高さ、希少性から別格動物とし、特別扱いを求める。一方、日本、特に映画「ザ・コーブ」で取り上げられた和歌山県大地町にとって、鯨、イルカは、それなくしては生活できないと漁師が信じる特別な存在である。双方にとって、鯨は単なる動物ではなく、まさに「おクジラさま」なのだ。 映画を本業とする著者は、映画「ザ・コーブ」にも、それに対する日本側の反応の静かさにも釈然とせず、双方の主張を取り上げたドキュメンタリー映画を制作する。本書はその映画製作の動機、過程、様子等を綴った本である。 本書の副題は「ふたつの正義の物語」だが、「正義」は多分に情緒的、感情的な言葉である。対立する立場にある者がなかなか互いに歩み寄れないのは、相手の主張に、まず感情的に反発するからである。例えば、反捕鯨映画「ザ・コーブ」の中心人物リック・オバリーは、妥協点を見つけることはできないかという著者の問いに、こう答えている。 「できると思う。水銀の毒にまみれたイルカ肉を日本人に売るのをやめて、イルカを捕獲して中国、ロシア、北朝鮮、トルコに輸出するのをやめて、つまりイルカに一切手を出さないことさ」 彼の言う「妥協」とはつまり、己の主張を全面的に受け入れさせることである。このような、命令に等しい物言いには、言われた側はまず反射的に反発する。イルカ漁、捕鯨問題には、まず感情的対立があり、鯨の数や漁師の生活等のデータは、己の感情を正当に見せてくれるための補強材料となっている。捕鯨に関する対立の根底には、おそらくこうした構造がある。だから、話し合いを重ねても、適当な着地点をなかなか見つけられない。ぶつかっているのは、まず、己を正義と信じる感情なのである。本書を通して双方の主張にふれながら、私はそんな風に感じた。 興味深かったのは、映画「ザ・コーブ」でリック・オバリーが言及している鯨の水銀汚染である。「ザ・コーブ」では水俣病を引き合いに出して扇情的に紹介されているが、事実としたら大問題である。住民の健康を心配した大地町長は、熊本県水俣市にある国水研に調査を依頼する。その結果、大地町民の毛髪からは実際に基準値を超える水銀が検出され、鯨肉の摂取量が多いほど、毛髪水銀濃度が高くなることが判明した。 ところが、最高値を記録した70代の漁師を含め、健康被害が認められる人が、一人もいない。水俣病の初期症状が全く誰にも見られないのだ。そもそも、水銀含有量の高いクジラが、水俣病の魚、猫のような健康被害を全く受けていないのだ。これはどうしたことか。詳しくは本書を読んでほしいが、命の不思議、したたかさを見る思いで、大変興味深かった。 未見であれば、まず、映画「ザ・コーブ」を見ることをおすすめする。その後に本書を読めば、いろいろ考えるきっかけとなり、得るところ大である。私は、本書を読んで大変よかったと思っている。 Posted by ブクログ おクジラさま ふたつの正義の物語 佐々木芽生 本当に中立的なドキュメントとは何なのか、よく吟味された本。色々と怒りや許しがたい感情が込み上げて来たりもするが、それらも取り上げつつも個人の意見は表明せず、読み手の判断に預ける姿勢は素晴らしい。 Posted by ブクログ 佐々木芽生のレビューをもっと見る