目次は以下のとおり。
・状況は切迫している(らしい)
・シンギュラリティ
・指数関数的な爆発
・コンピュータは自律できるか?
・現代のグノーシス
・来たるべき未来
・シンギュラリティと終末論
・偽りの人類愛
原題のフランス語をグーグル翻訳にかけると、「特異性の神話 人工知能を恐れるべきか?」なので、邦題とはおもむきが異なるイメージ。
読んでみると、この本には、マシンラーニングやディープラーニングなどの技術的、学術的、事例の類は書かれていないので、邦題からのイメージだけで買った人はなんじゃこりゃ?と思うかもしれない。
本の流れとしては、シンギュラリティブームの火付け役のレイカーツァイルが言ってることって信用に足るものなのか?という点を論破していきながら、このブームに乗ってる米国企業は、悲観論を前面に出しつつ、自分達は悪くないという防御線をはり、更に、国が持つ特権を密かに侵害しとるという警告の書。
これまでいくつかの人工知能本を読んでいたので、この本の仕立てについて、自分は好意的な印象。
著者が哲学者って言うのもいいし、フランス人って言うのも良い。個人的には、フランスって過去の人工知能ブームで先導していたイメージがあるので、その国からこういう警鐘が出つつも、自国ではいろいろやってるんだろうなぁと思わせる感じは好き。
「トーマス・クーンが「パラダイムシフト」と称した既成概念の変化は、既存の概念が確立されるよりも、はるかにゆっくりと偶発的に進むものである。ひるがえって、今日の機械学習の手法は、既知のデータから経験的法則を求めることは得意だが、新たな概念を創造するまでには至っていない。教師なし学習では、期待されるものの、新たな概念を創造創造するどころか、概念装置すら想像できていないのが現状。」
ジョン・サールが、1980年代に「中国語の部屋」論文の前書きで、強い人工知能と弱い人工知能という言葉を作ったのは知らなかった。 この強い人工知能、弱い人工知能というのも、弱いイコール専門機能、強いイコール汎用機能という整理になって、今でも使われたりするので、認識の整理という点では、使い勝手が良さそう。
グノーシス主義との関連性については、ちと難しかった。
シンギュラリティと終末論の章では、「円環としての時間」と「無限の直線」という、人類のもつ概念から、特に一神教がもつ終末論的発想からシンギュラリティが導き出されていると論じ、更に、これはヒューマニズムの名の下に進歩を限りなく続けていこうという理想を持つ啓蒙主義とも違うと。
この本を翻訳したチームは凄い。だって、この一般受けしなさそうな骨のある本を翻訳してくれたんだもの。日本語で読める事に感謝。そして、後書きには、東大名誉教授の西垣通先生の気合の入った論説。
この本は、かみごたえがあり、前提のいくつかの本を読んでおくとより楽しめるのではないかと思う。自分は、レイ・カーツァイルの『シンギュラリティはちかい』はもちろんのこと、佐藤優氏の『牙をとげ』の第2章あたりを読んでいたので、この本が楽しく読めました。
じっくり読んで考えて楽しむという本。