OECD東京センター長による、さまざまなデータを国際比較しまとめたもの。長年ゴールドマン・サックスで活躍し、スタンフォード、ハーバードの修士を持ち、国連勤務経験もあるといった著者の経歴は驚きである。OECDに勤務しているだけあって、豊富で正確なデータをもとに極めて説得力ある論理を展開しており、参考になった。わかりやすい。日本は、AI、ICTなどの最新技術を駆使して省人化を図っていくことが優位をもたらす、唯一の国家であるとの意見は面白い。
「(デューク大学 キャッシーデビッドソン)現在の小学1年生が大人になる頃には、彼らの65%が今存在していない新しい仕事に就く」p13
「(OECD)最も高水準スキルを有する人々が従事している仕事は大幅に増加傾向にあり、スキルレベルの低い人たちが従事している仕事は横ばい。それに対して、中程度のスキルの人たちの仕事は大きく減少していることがわかります」p16
「低水準のスキルで済む単純肉体労働のような職種は、意外にも、IT化の流れにあまり影響を受けていません。例えば清掃作業では、最新の掃除機を導入しても、人間がそれを手動で操作するため、清掃には今後も労働力が必要とされることが推測できます」p18
「年功序列は主に中途採用者に不利になるため、年功序列を採用している企業が多ければ多いほど転職が難しく、労働市場は硬直化することになります。企業は成果を上げない社員であっても辞めさせることはできませんし、社員の方も転職すると給与が下がったり、キャリアダウンすることが多いので、会社に留まる方を選びます」p66
「生涯年収は、平均2億6196円。女性で育児ブランクがあり以後非正規だと、7600万円程度。一時的に保育園、ベビーシッター費用に多額を要しても、長期的には十分に見返りがある」p96
「保育園は、未就学児の託児サービスとしては優れたシステムですが、教育プログラムは導入されていません。教育的な環境を求めるのであれば、幼稚園に通わせる必要があります。しかし幼稚園は、専業主婦の母親を前提とした教育システムで、延長保育はなく、日中に母親が参加しなければならない行事が多いなど、フルタイムで働く母親にとってはほぼ利用不可能です。さらに毎日お弁当を作ること、バッグやだっこ人形からモップ、雑巾まで、子供の持ち物を母親が手作りすることなども期待されます」p107
「アメリカでは、人種や性別に基づく差別行為が証明された場合、非常に厳しい罰が企業に課されます。私はニューヨークで働いている間に2人の子供を出産しました。妊娠を上司に報告すると、妊娠中に仕事を継続するために必要な会社側からのサポート体制、産休中のバックアップ体制などを、出産後の職場復帰を前提として話してもらえました」p111
「OECD本部はパリにありますが、職員は職責に関わらずほぼ全員が、7月から8月の間にほぼ1ヶ月のバカンスを取ります。普段は海外を飛び回り、オフィスの席が温まらないくらい忙しい同僚たちでも、夏とクリスマス休暇はしっかり取ります」p126
「日本の開業率、廃業率は5%以下、米英はいずれも10%程度です。その結果、日本の小規模企業の大半を古い企業が占めるという、ダイナミズムに欠けた状況が生まれているのです」p164
「政府の中小企業への手厚い保護とは対照的に、スタートアップ企業に対する民間投資は、欧米と比較すると低い額にとどまっています」p169
「経済のグローバル化や市場の新陳代謝がイノベーション拡散に必要なのは、それが健全な競争を促進するからです。競争があることで、企業はイノベーションを行い、新たな市場を開拓し、競争相手に対する優位性を獲得しようとします。製品市場規制が少ない程、市場への新規参入が増え、国内外からの知識の普及が効果的に進み、イノベーションへの民間投資も増えるというメリットがあります」p170
「日本にとって深刻な問題は、非製造業のTFPが1991年以降伸びていないことです。これはサービス部門における自由競争が十分でなく、研究開発などの企業の投資が(大幅に)少ないことも反映されています」p177
「国際比較すると、日本のサービス部門の輸出寄与度はOECD平均よりかなり低い状態です。日本はサービス市場、特に運輸交通、通信部門の競争を拡大する改革を優先することで、イノベーションを喚起し、経済の効率を大幅に改善できる余地を残しているのです」p179
「企業がアメリカの若者に人気があるのは、イノベーションのアイデアを持つ人が多いだけでなく、それを商品化し事業として発展させるための社会インフラが整っている上、安定よりもリスクを選んで挑戦することに対して社会的賞賛が大きいことが挙げられます」p188
「テクノロジーが人間の仕事を奪うことを歓迎できるのは、ほぼ完全雇用状態である日本に、深刻な労働力不足という追い風が吹いているからです」p191