タイトルの『コンカッション』とは「脳震盪」のことだ。NFL(全米アメリカンフットボールリーグ)におけるプレー時の衝撃がプレイヤーの脳に与える影響をひとりの医師が究明していく過程を描いたものだ。
主題はふたつ。ひとつはNFLという大きなスポーツビジネスにおける致命的な脳神経系における健康障害の実態。
...続きを読むもうひとつは、ナイジェリア生まれの医師で、それがゆえに被ったであろう差別や不利益を産む現実。そして、このふたつに関してビジネス利権を背景にした不誠実な圧力が絡んでくることになる。
読書前に期待していたのは後者のストーリーよりも前者の現実や危険性や対策についての科学的な分析や知見であった。そういう意味では映画化の原作であることも理由であろうが、後者に重きを置いているところは若干不満が残った。またノンフィクションとしての出来を問うのであれば、NFL側について不誠実な対応をすることとなった科学者たちへのインタビューなどが必要であろう。
それにしても、元プロボクサーの言動や調子がおかしいことをもはや笑うべきではないのだと思う。脳の繊細さを知るとともに、脳の可塑性に着目したリハビリ技術の向上にも期待したい。
しかし、おそらくはほとんどの日本人がコンカッション(Concussion)が脳震盪のことだとはわからないのではないか。さらに言うと、そのタイトルからはNFLのプロスポーツにおける身体障害の危険についての警鐘というテーマが伝わらない。原題含めて「NFL」や「アメフト」という名前やそれを示唆するタイトルをつけることは難しかったのではという勘繰るのはうがちすぎなのだろうか。いずれにせよ、映画のタイトルにもなっているので仕方がないのかもしれないが、本としてのタイトルには工夫の余地があるのではと思う。
---
この本の主人公でもあるBennet Omaluが次のような本を出している - ”Play Hard, Die Young: Football Dementia, Depression, and Death”。どうやら日本語化の予定はないようだけれど読んでみたい本だ。