ユーザーレビュー ヒトはなぜ絵を描くのか 芸術認知科学への招待 齋藤亜矢 斎藤亜矢『ヒトはなぜ絵を描くのか:芸術認知科学への招待』2016 知性と感性 人間はどうして絵を描くのか、を古代の芸術から、チンパンジーの絵、子どもの絵描きを通じて、私たちがどうして絵を描くことを楽しんだり、絵の鑑賞を好きになるのかを考える本。読みながら自分が子どものとき、お気に入りのおもちゃに所...続きを読む狭しと貼ったシールや、絵本の隙間に書いた落書き、大きな模造紙に書いた兵隊の絵。。。その時自分がどんな気持ちだったかを思いだした。 この本を読んだ正直な感想は、この著者のような知性と感性を持ちたい、ということだ。著者は、一見不可解に見える、子どもたちやチンパンジーの絵や、絵を描いている時の感想をじっくり観察しながら、それぞれの子どもやチンパンジーにとってどんな意味があるのかを考えて考えている。そして自分自身のいろんな経験を思い出しながら、分析しながら共感しながら、考えている。。。そのように知性と感性のあいだを絶えず行き来しながら分析する姿は、科学者であり芸術家であり、本当の意味でヒューマニストであると感じた。自分自身に子どもができたら、著者のようなまなざしを持って子どもに接してあげれるような親になりたい。 Posted by ブクログ ヒトはなぜ絵を描くのか 芸術認知科学への招待 齋藤亜矢 チンパンジーの絵の分析から出発し、人はなぜ絵を描くかについて考察する。 専門的な用語は殆どなく、全体的なボリュームも100ページちょっとであるため、かなり読みやすい。 個人的には、記号性が人の絵や認識にどのように影響を与えるのか、という話が特に印象に残った。対象の言語化はできればできるほど良いことだ...続きを読むと思っていたが、本書を読むと必ずしもそうとは言い切れないのかもしれないと感じた。 刺激記号があった方が自由な発想が生まれやすい、というのは絵を描くことに限らず、仕事や趣味全般について言えることだと思う。読んだ後に実際に街へ出て色々なものを見てみたくなる本。 Posted by ブクログ ヒトはなぜ絵を描くのか 芸術認知科学への招待 齋藤亜矢 読んだキッカケはahddamsさんのレビュー(3月5週のBestレビュー掲載)で、目的は現在松木武彦さんの本を熟読しているので、「芸術認知科学」とは何か、概略や歴史を知りたかったため。であるが、その目的は達成されなかった。概略は、この本全体で記されている。ちょっと要約できない。 「ヒトはなぜ絵を描...続きを読むくのか?」その問いと答えそのものが、とても興味深いものだった。 ハッキリしたものでは、約4万年前、痕跡を入れるとネアンデルタール人の約5万年前から、ヒトは洞窟に表象絵を描いてきた。しかしながら、DNAの差わずか1.2%のチンパンジー(600万年前に共通の祖先から分かれた)にいろいろ絵を描かせようと試みるも難しいことがわかってきた。そこから「ヒトとは何か」が浮かび上がってくる。 チンパンジーは描かれた表象を見分けることができる。恣意的なシンボルをある程度理解し、扱うこともできる。そして画風があるほどに描線をコントロールして描ける。けれども、顔の輪郭に「目」を入れることさえできない。2歳のヒトは出来るのに、である。 今ここに「ない」ものをイメージして、補う。‥‥想像する力をヒトはなぜ身につけたのか? 小説ではないのでネタバレするけれども、それは言語を手に入れたからだ。面白いのは、そのことによって「失った能力」もあるだろうと推論していることである。それは(この言葉は使われていないが)「カメラアイ能力」である。宮部みゆきが持っていると私が推測している能力、高村薫「レディ・ジョーカー」で合田雄一郎が発揮する能力、である。 私たちは言語を持ったことによって、目に入るものを常にカテゴリー化し「何か」としてみようとする記号的な見方をしている。だから言語を獲得する前の幼児は却って「カメラアイ能力」を持っているのだという。とても興味深い。 子供がよく描く絵の一つに「頭足人」というのがある。頭のすぐ下に足がつく。これは「胴体」という概念が子供には漠然とし過ぎているためだという。そういえば、私、頭足人たくさん描いた覚えがある。突然思い出した。 そういうわけで、洞窟絵画の写実性は際立っている。一方、ヒトは「アート」を創造してきた。何かわからない「何か」をみようとすると、ヒトはアートとして表現する。 「想像」と「創造」はヒトの根源から深く結びついているのである。 Posted by ブクログ ヒトはなぜ絵を描くのか 芸術認知科学への招待 齋藤亜矢 チンパンジーとヒトを比較した研究から、絵を描くことについてコンパクトにまとめている良書。内容は読みやすく、予備知識不要でわかりやすいが、なぜかフォントが私には見づらかったのが残念。 Posted by ブクログ ヒトはなぜ絵を描くのか 芸術認知科学への招待 齋藤亜矢 先日観劇したお芝居の演者さんがあまりにも素晴らしくて、帰宅早々その方のイラストを描いた。 人物なんかは簡略化したフォルムでしか描けないが絵に向き合っている間は本当に楽しく、描き終わる頃には「あの感動をせめて等身大で、あわよくばそれ以上に表現できるようになりたい」と、妄想がえらく飛躍していた。 漫画を...続きを読む読まないようにしているのもそのためである。人一倍どハマりするばかりか、自分もファンアートを描いてみたいと冗談抜きで寝食を忘れてペンを走らせかねない…。(正気に戻った時が一番恐いけど笑) その気持ちの興りはどこから来るのか。今もついて離れない妄想を分散させるつもりで本書を取り寄せた。 「絵を描く」という行為を芸術と科学の観点から考察するというもの。「描きたいから描くんだ!」と言ってしまえばそれまでだが、奥部まで突き詰めていけばもっと面白い答えが見つかるかもしれない。 いつも以上に明快な動機を胸にページをめくった。 タイトルの「芸術認知科学」とは著者(現 京都藝大教授)が命名した、一見相反する芸術(「感性」)と科学(「知性」)の関係性を追求していく分野のこと。 ラスコーやアルタミラといった洞窟絵画を起点に、チンパンジーとヒトの子供の描画を比較した実験の様子を展開している。 目的は不明瞭なものの岩の凹凸を動物に見立てたり画材のバリエーションも豊富、我々の祖先は早々に描画の楽しさに目覚めていた。実験でも空白のスペースに何かを描き入れるのは人間にしかできないことで、想像力、すなわち「ない」ものをイメージする力に長けているという結果が出ている。 前半は期待していたような「答え」は得られなかったが、ヒトが絵を描く行為に関心を寄せていくプロセスが肌で感じ取れた。 後半の第4章「なぜ描くのか」と第5章「想像する芸術」では、絵を描きたい(あるいはその他アート作品を制作したい)という衝動がフォーカスされており、何度か冒頭の自分と重ねていた。 ヒトの子供の例ではあるが、絵筆の動かし方によって変わる描線を「探索」したり絵具の香りを感じたりと、五感をフル稼働させる。そうして世界を知っていくことが絵を描く「おもしろさ」に繋がるんだと著者は述べている。 完成後を眺めるのも好きだけど、描いている時が一番楽しいというのは激しく同意だ。 極めつけは、美術家 内藤礼さんの言葉。 「自分が感じたことをアートの中に表現したい。別にだれがしなくてもいいのだけれど、やらずにはいられない」 美しいもの、すなわち新しい世界を知った時に身体に流れ込んでくるあの衝動。衝動が筆を動かす原動力となり、それは心ゆくまで止まらない。 結局「描きたいから描くんだ!」に終着しそうな雲行きだが、描いている時の「おもしろさ」も彼女は渇望しているはず。そう(描きたいという志だけは同じ)自分は睨んでいる。 Posted by ブクログ 齋藤亜矢のレビューをもっと見る