対象を湾岸産油国(ペルシャ湾南岸5カ国)に絞って、また、主として政治体制(王朝君主制)と経済体制(石油収入と自国民プレミアム)にのみに焦点を当て、論述したもの。記述が正確で学術的。とても興味深く読めた。面白い1冊。参考となった記述を記す。
「最も早く石油が発見されたのはバーレーンで、1932年には
...続きを読む生産が開始された。また、1938年にはクウェートでブルガン油田が発見されたが、二次大戦により生産は見送られた。湾岸産油国で本格的な石油生産が行われるようになったのは二次大戦後のことであり、1946年にクウェートにおいて、また1949年にはカタールにおいて石油生産が開始された。UAEの石油生産は1960年代、オマーンの本格的石油生産は1970年代のことである」
「石油輸出国の中でレント収入依存割合が高い第一グループ(サウジ、イラン、UAE、クウェート、バーレーン、オマーン)は非民主的な傾向にあり、それが低い第三グループ(ナイジェリア、メキシコ)は非民主的な傾向が低く、中間の第二グループ(ロシア、ノルウェー、ベネズエラ、リビア、カタール)にはそれらが混在しているとみなすことができる」
「歴史とは、現状を肯定するために、過去の出来事を現在の関心で恣意的に編纂した物語だ。恣意的に歴史を編纂すると説明すると、歴史があたかも捏造された過去のように思われてしまうかもしれない。しかしながら、そもそも全ての過去の出来事を取りまとめて記録しても、前後に何の関係ない情報が並んだ年表になるだけだ。膨大な過去の出来事を何らかの一貫したストーリーの下に一つに統合、編纂することによって、初めて意味を持った歴史が作られる。国民統合においては、国民を創出し、国民をまとめあげるという目的に適合する形で、過去の様々な事件が取捨選択され、それぞれに適切な解釈が加えられ、配列され、「国史」が生み出される」
「湾岸産油国は、歴史的建造物や伝統工芸に乏しく、また思想面での活動も他のアラブ諸国に比して活発でないが、「国民らしさ」や「国史」を対象に、国民統合が行われ、現状を肯定する手段が存在していることもまた事実だ。このことは、湾岸産油国において石油価格の急落によって国民に配分される資源が減少しても、即座に君主制が揺るがない可能性を示唆している」
「湾岸産油国で契約更新を望む外国人労働者は、多少の時間外労働や賃金の減額にも耐え、スポンサーの歓心を買おうと努める。結果として外国人労働者の労働環境は悪くなる傾向にあり、彼らは場合によっては職場を逃亡して不法滞在者となることもある。もっとも、スポンサーは彼らが逃亡することを防ぐ目的で、労働者のパスポートを取り上げてしまうことが多い。湾岸産油国のスポンサーシステムが、現代の奴隷制と揶揄される所以である」