ユーザーレビュー こんな日弁連に誰がした? 小林正啓 戦後の法曹界の内幕物。特に2000年前後の司法改革をめぐる弁護士たちの世界の状況や動向がよくわかる。著者自身が弁護士でありながら司法改革を傍観者的に眺めていたことから、業界の内部事情に分け入りつつも冷めた感覚で物事の成り行きを綴ることができたのだろう。正義はそれぞれの立場の数だけあり、大事なのは自身...続きを読むの立場を相手に受け入れさせていく権力闘争のスキル。そのぶつかり合いの中で形成されているバランスこそが社会正義である。それが著者の考えである。このスタンスからすると、日弁連は己の立場を政府・裁判所・検察に尊重させることのできなかった落第生ということなのだろう。著者は、人権派弁護士がこれまで社会の弱い部分に果たしてきた役割を認めつつも、彼らの「経済的自立論」に対しては、世間の理解を得られないとして、冷ややかなまなざしをおくる。彼らは世間に自分たちの立場を受け入れさせる努力をしていない、ということだろう。だが、社会の弱い部分の救済に法律の専門家が関わることが重要なのは確かだろう。そしてそれが今の法曹界では、ほぼ無償のボランティア活動としてしか存在し得ないのも確かだろう。それぞれの正義を主張すればよいとはいうものの、それでは持続できない正義もある。そうした活動は今後どのようにすればよいのか。著者にはそこにも触れてほしかった。たとえば、法テラスについてはどう考えているのか。著者も言うとおり、日弁連がどうなるかということよりも、人権の守り手としての弁護士や司法の機能をどう維持していくのかについて、他人事のようにでなく論じてもらいたい。 Posted by ブクログ こんな日弁連に誰がした? 小林正啓 ともすれば陰謀論に陥りがちなテーマをバランス良くまとめられているという印象。中立性を保って歴史記録にとどめようとする姿勢は,世代は違えども同じ一会員として色々と思うところもあると容易に想像できる分,尊敬の念を禁じ得ない。 内容的にはさもありなんという感じで,驚きはない。もちろん,会務に携わる個々...続きを読むの弁護士の労力は相当なもので,そのエネルギーは素晴らしいと思うが,残念ながら組織として有効に機能していないという状況は今でも変わらない。給費制にせよ法曹人口論にせよ,過去から真摯に学ばなければ,失敗は繰り返されるだろうし,組織としての求心力はもちろん,制度の存続も危うい。 しかし,内容はともかく,タイトルは売ることに関しては失敗だったのかもしれない。日弁連がどんなであろうと関わりのない普通の人は手に取らないだろう。元となったブログタイトル「日弁連はなぜ負けたのか?」の方が,誰に負けたのか?いつ何で負けたのか?との興味をそそり,売れたような気がする。まぁ,色んな事情があったのだろうし,このタイトルの方が内輪としてはインパクトがあっただろうとも思うが。 Posted by ブクログ こんな日弁連に誰がした? 小林正啓 近年の司法にまつわる制度変遷の過程を分かりやすく説明。それにしても、登場する方々みな非常に人間くさい。読み物として純粋におもしろかった。 五十年史に記載されなかった日弁連最大の失敗がつぶさに語られている。失敗から学ばない組織は滅びる、との作者の言は重い。 Posted by ブクログ こんな日弁連に誰がした? 小林正啓 あまり知られていないようですが、この本は少なくとも若手の弁護士、ロースクール生には必読書だと思います。 日本の司法界の歴史が、非常にわかりやすく書かれています。しかも面白い。 私が受験生のころに、急に出てきた(ように感じた)「丙案」。 今となっては懐かしい響きですが、受験当時は、翻弄されたもので...続きを読むした。 現在の法科大学院制度が出てきた経緯や弁護士の増員、法曹一元の問題と関わりながら、どのような変遷をたどってきたのか、よく理解できます。 Posted by ブクログ こんな日弁連に誰がした? 小林正啓 企業法務マンとして、司法試験合格=2000~3000人時代になったら、弁護士資格者が企業の中に入ってきて、資格のない自分なんて、淘汰されるだけではないか。。。。。という6-7年前くらいからの不安はあり、それは自分なりに心の中で解決してきたつもりであった。 しかし、何故司法試験合格者が2000~30...続きを読む00人になるのか?については「どうせアメリカの圧力だろう」程度で、深く考えては来なかった。 この本は、「司法試験合格者大増員」・「法科大学院構想」といった制度改変が、日本弁護士連合会(日弁連)が「法曹一元論」の達成という勝ち目のない戦いを行う際に、バーター的に進められたものであったが、日弁連の政治的無策・無能により、「法曹一元論」(日弁連)のみが惨敗したということを公表された事実を元に明らかにしている。 面白すぎる本。2010年度上半期ベスト・ワンとして上げたい。 また、以下の最後の言葉が印象深い。昔、寺山修司も「ウルトラマンがベトナム戦争にいったら、米国とベトナムのどちらの味方になるのか?」と書いていたし、川内康範も「人間は正義そのものにはなれない。だから月光仮面は正義の味方としたんだ。」と言ったことに通じると思う。 "また,弁護士が皆,同じ正義を主張する必要もない。労働者の正義でもよいし,資本家の正義でもよい。女の正義でもよいし,男の正義でもよい。被害者の正義でもよいし,被告人の正義でもよい。それぞれの立場の弁護士が,それぞれの正義を闘わせる中で,裁判所の正義が形作られ,裁判所の考える正義が立法府や行政府の考える正義と対立する中で,国家としての正義が作られる。" Posted by ブクログ 小林正啓のレビューをもっと見る