ベートーヴェンというと、耳の聞こえない偏屈で恋愛に不器用な作曲家、ゲーテを嘆かせた野人、最後は孤独で悲惨、といったステレオタイプなイメージが刷り込まれている気がする。
この本は、資料を元に丹念にベートーヴェンの偉大な生涯を追った素晴らしい力作。
先に書いたようなベートーヴェン像を見事にひっくり返
...続きを読むしてくれる。
如何に彼が当時の中で先進的な思想を持ち、それを体現していたか。
どれだけ情愛深く、関わりのあった人を心配し、恩人に感謝を捧げる人であったか。
ベートーヴェンというと、堅い曲、というイメージがあるかもしれないが、彼は当時の他の作曲家が思いもしなかった様々な実験的チャレンジをし、さらには演奏では比肩する者がいない即興演奏家であった。そんなところを知ると、クラシック音楽演奏家にありがちな「楽譜通り」という言葉も少しばかり虚しくなる。
個人的には、先輩作曲家、サリエリとの交流が意外であり、またここでも固虚像を崩された。。何しろサリエリは、映画「アマデウス」でモーツアルトへの嫉妬に狂った凡才作曲家というイメージが流布しているのだ。サリエリは、尊敬を受ける作曲家であり、ベートーヴェンが若い頃に多大な援助をしたことから、とりわけ彼から敬愛される人物だったらしい。