作品一覧

  • フェイクコメディ
    -
    1巻880円 (税込)
    「今夜、第四十五代アメリカ合衆国大統領、ドナルド・ジョン・トランプがここを見学する。大統領みずからの希望だ。館長として案内をしてほしい」歴史上初の米朝首脳会談のニュースが流れる2018年5月のある朝、長崎原爆資料館長の「わたし」の目の前に、キッシンジャーと名のる謎の男が、突然訪ねてきた。長崎市内ではトランプ大統領の「そっくりさん」の目撃情報がSNS上にあふれ、地元のマスコミが騒ぎはじめた……。テレビ局による大仕掛けの撮影か、それともテロリスト? NHK『おはよう日本』でも紹介され話題になった、核兵器と人間をめぐるポリティカル・フィクション。
  • 小指が燃える
    3.0
    1巻1,629円 (税込)
    「沈黙のなかの沈黙」 長崎に住む作家の「私」は20代の頃、同僚の義父の葬儀に参列して、「夜、もうひとつのお葬式がある」と聞かされた。さては隠れキリシタンの秘義か? と色めきたつ「私」に同僚は困惑を隠さない。そのときから「私」の脳裡に一組の男女が棲みはじめた。 「私」はやがて、弾圧の時代にもキリシタン信仰を守り抜いた一族の末裔を主人公とする小説を書いてデビューする。しかし、それは底の浅い、通俗的な物語ではなかったか?「私」はやがて書きあぐね、行きづまる。 自分は、遠藤周作『沈黙』などの物語をこの土地の歴史に編みこんでいたのではないか? 虚構の記憶をも土地に重ね、本来の土地の姿を見失っていたのではないか? 幕末の潜伏キリシタンのプチジャン神父による発見という「物語」を批判的に乗り越える試み。作家としての出発点へ立ち返り、新たな地平へと飛翔を遂げる問題作。「小指が燃える」 長崎で戦争や敗残兵の物語を紡ぐ「私」の元へ、小説は面白くなければ、売れて読まれねばと言い切る元政治家の先輩作家(石原慎太郎)と、原爆体験を書き継ぐ女性作家(林京子)のまぼろしが交互に訪れる。 体験していない戦場や爆心地を書くのは、そこに美を感じ魅了されるからではないか。それは堕落、倒錯ではないか・・・。 己に問い直しながら「私」は、以前、文芸誌に発表した敗残兵の物語を書き直しはじめる。力作中篇240枚。
  • 悲しみと無のあいだ
    3.0
    1巻1,222円 (税込)
    長崎の被爆にこだわりつづける芥川賞作家の、思索と創作イメージの深まりを示す2篇。 原爆で妻と子どもを喪った自由律俳句の俳人、松尾あつゆきの日記を読みながら、「被爆者の証言やエピソードを粘土のようにこねまわして物語(フィクション)をこしらえてきた」自分へのうしろめたさを意識する「わたし」。林京子さんの「自由に書いていいのですよ」という言葉から、さらなるイメージの飛翔がはじまる――。【「愛撫、不和、和解、愛撫の日々」】 戦争を経験し、原子爆弾の光景を目撃した父の病死。家族と葬儀の準備をしながら「わたし」は、言葉をもたず、その光景を語らなかった父のかわりに、「感傷に流されることなく人間のしわざを告発するなにかを書くことができないか」、模索を始める。 愛読してきた作品……フォークナーの『八月の光』や宮沢賢治の『よだかの星』、アンリ・デュナンの『ソルフェリーノの記念』やクロード・シモンの『フランドルへの道』にインスピレーションを得て文体を掴み取り、「廃墟のなかをさまよう十六歳の父の内奥にしみこんでいった被爆の実相」を書こうと試みる。 それが「しょせんは想像でしかない」、「なにもわかりもしない」、なぜなら「わたしたちはついに語り合えなかった」のだから、と自らを戒めながらも、作家は想像力の翼をひろげ、その日の長崎を描き出そうとする。【「悲しみと無のあいだ】
  • 人間のしわざ
    4.3
    1巻1,320円 (税込)
    この世界のどこに救いや癒しがあるのか――戦後70年に問いかける衝撃作。男は戦場カメラマン。紛争を追いかけて世界中を駆け回り何十年も家庭を顧みず、結果、妻の死を知ったのは葬儀が執り行われた後だった。今は、テロリストとの関係が疑わしい引きこもりの息子と暮らし、妻の裏切りの記憶に苦しんでいる。かつて、互いに惹かれあいながら結ばれなかった女との逢引先で男が語り始めたのは、青春の日々に長崎の町で掘り出された喉仏の骨、黒こげの殉教者の慟哭、そして30年前の雪の日の、爆心地での教皇の祈りだった――。デビュー20年。『聖水』『爆心』に続き新たに殺戮と紛争の世紀を問う衝撃作。長崎という土地の記憶を探り続けてきた著者の、到達点であり出発点がここに。【目次】人間のしわざ/神のみわざ

ユーザーレビュー

  • 人間のしわざ

    Posted by ブクログ

    『戦争は人間のしわざであり、誰も望まなくてと人間は秩序を求めるのと同じくらいに混沌を求めており、なにもしなくてもアンテナは錆びついていき、コンクリートは剥がれ落ちはじめ、土台の鉄骨でさえだんだんと傾いて、いつかは壮麗な天主堂の崩壊のときは必ずくるだろう…』ー『人間のしわざ』

    青来有一が書くことの根源には長崎という土地に幾重にも堆積した命と信仰するものへの揺れる気持ちがあるとは感じていたが、ここまで率直に語られるとは思わなかった。例えば「てれんぱれん」とこの「人間のしわざ」はほとんど同じことを書いているようにも思えるが、神のみわざを遥かに上回るかのような人の生み出す力、そしてその力が犯してしま

    0
    2015年07月08日
  • 人間のしわざ

    Posted by ブクログ

    2015.7記。

    むごたらしい殺戮の現場を撮りつづける戦場カメラマン、息子はその写真をネットで売りさばき、原発へのテロを夢見ながら引きこもっている。
    広島で教皇が演説した時にいったという「戦争は人間のしわざです」という言葉は、原爆さえ神の御心による試練だと信じようとしていた長崎出身の主人公に動揺をもたらす。

    主人公がみる幻覚の形で描かれる江戸期のキリシタン弾圧のすさまじさ、島原の乱における籠城戦の悲惨さ(これはバルガス・リョサの「世界終末戦争」を彷彿とさせる)。
    そして息子とともに撮影に赴いたぬかるんだ干潟に溢れる生命。

    表面的なところでいうと、意外と文体に村上龍との共通点がある気がした

    0
    2019年01月05日
  • 人間のしわざ

    Posted by ブクログ

    「人間のしわざ」と「神のみわざ」という2編から成るが、両者は内容的に連続している。個人的には、混沌とした前者よりも、主人公あるいは作者の思索や主張がより明快な後者の方が好みだが、前者を読まなければ後者は理解できず、要するに2編で1編なのだろう。
    30年前の学生時代に分かれた男女の邂逅から話は始まるが、結局、男女がどうしたということではなく、戦場カメラマンという道を歩んだ男の思索が主題となる。惨たらしい戦場、被爆地であるとともにキリシタン殉教の地である長崎、長崎を訪問したローマ法皇ヨハネ=パウロ2世、ゴルバチョフ、ワレサ議長といった一見脈絡のない場所と人が、自然、神、人間というキーワードの中でつ

    0
    2015年06月05日
  • 小指が燃える

    Posted by ブクログ

    原子爆弾が落とされて、これで良かったのだ これしかなかったのだ
    と、思ったことが私にもあるだろう きっとある
    祈りと神と原罪と人間の、私は何たるかを分からないけれどどうしてこうも海のように晴れ渡っているのか

    0
    2018年09月26日
  • 悲しみと無のあいだ

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    長崎に落とされた原爆の日を思う2編。

    句碑に刻まれた松尾あつゆきの日記
    原爆で亡くなった彼の妻と3人の子、生き残った父と娘一人。
    当時を体験し、次の世代へとそれを伝える林京子さんに対する気持ちと、
    自分はあの日の現実を聞いて想像するしか出来ないもどかしさ。

    被爆者である父が、亡くなるまで結局語らなかった8月9日の詳細に思いを馳せる。
    亡くなった父の少年時代と養父母とのやり取り、あくまで想像であって、
    海外小説の戦争の話。

    原爆についての話が多い著者にとって
    一番身近な人の被爆の話を聞けなかったのは心残りだね。
    もし詳細を父に聞けていれば、この小説はまた違う形になったのかな。

    0
    2015年09月02日

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