「暮らしと物価」というと日用品などの生活雑貨について詳しく書いてあるのかと思いきや、勿論それにも関係するが、より根本的な資源についての本。データも新しく、資源ごとに分かりやすく整理されたページでの世界情勢に絡めたシンプルな解説も秀逸。読後、日常生活に影響するニュースへの感度が上がり、世界を見渡す力がつくかも。
ー 国家の安全保障は、主に「地域安全保障(狭義の国家安全保障)」「エネルギー安全保障」「食料安全保障」「経済安全保障」という4つの分野に分けられる。この4大安全保障を堅持することが国家運営の基本となる。日本はエネルギー自給率が13.3%(2021年時点)、食料自給率が38%(2022年時点)であり、不足しているエネルギー資源や食料は、外国からの輸入に依存するしかない。
先ず、この現状認識。分かってはいるが、軍事もエネルギー資源も食料も、日本は自国のみではやっていけない。一部で鎖国していた江戸時代に戻すべきという主張もあるが、この依存度をどのように調整できるか、調整する事が結果的に良策か否かがポイントだ。
私的ながら、いや、私的な書評ゆえ、自分が押さえたい部分を抜粋する。しかし、似たような本を読めば繰り返し出てくるものもあり、記憶力の頼りなさを恥じる。
ー 中国から欧州に至る航路において、中継地となる港湾の運営権および利用権を次々と獲得。パキスタンやアラブ首長国連邦、スリランカ、ジブチ、ギリシャなどの港に中国の船舶が自由に出入りできるようになった。しかし、スリランカは中国への債務の返済が困難になったことで港湾の運営権を移譲しており、中国の「債務の罠」に対する警戒感が各国で強まっている。
ー 海洋進出においてはシーレーンの構築とともに、シーパワーの獲得を目指している。アフリカのジブチに建設された港は中国にとって国外初の軍港であり、海軍の拠点を着々と拡大している。
さらに、インド洋の島国であるモルディブにも中国が進出。2023年11月に就任したモルディブのムイズ大統領は政策を転換し、それまで駐留していたインド軍が撤退。新たに中国から軍事援助を受けることで合意した。中国軍がモルディブに駐留することで、インド太平洋における中国の拠点はさらに拡大することになる。
ー 2021年末頃から1バレル70ドル前後だった原油価格は上昇傾向になり、2022年2月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始すると、一気に価格が高騰した。これはロシアへの経済制裁でEUやイギリス、アメリカがロシア産の原油を禁輸にしたことが主な要因。世界の原油価格の指標となるブレント原油は、侵攻直後に1バレル130ドル超まで高騰した。その後、世界経済の停滞などもあって価格は徐々に下がっていったが、2023年に入り再び上昇。これはOPECプラスによる協調減産が主な原因となっている。OPECプラスとは、中東の産油国が中心のOPEC (石油輸出国機構)にロシアやメキシコなど10カ国を加えた枠組み。1960年に設立されたOPECは、供給量の調節などで原油価格の決定に大きな影響力をもっていたが、北米のシェールオイルが市場に出ると影響力は徐々に低下。そこで、2016年に23カ国まで枠組みを拡大し、影響力を取り戻した。OPECプラスは2025年末まで協調減産を継続すると発表している。
ー 欧米からの禁輸措置を受けたロシアは、経済制裁に同調しない中国やインドに対して原油の輸出を拡大。それぞれ14億人もの人口を抱える中国とインドは原油の国内需要が高いうえに、市場価格より安値で原油を購入できるため、ロシアからの輸入量を一気に増加させた。その結果、2022年のロシアの原油輸出量はむしろ前年比で増加し、2023年にはそこから若干低下したものの、ウクライナ侵攻前とほぼ同じ水準であった。中国とインドへの輸出だけで、総輸出量の80%以上を占めている。それだけでなく2023年には、インドなどからEU各国に向けた石油精製品の輸出量が急増していることも明らかになった。中国やインドにとっては、ロシアから安値で購入した原油の精製品を市場価格で売ることができるため、利益の残る貿易となっている。ロシアは中国とインドへの原油輸出量を増やすことで禁輸措置による影響を最小限にとどめており、ロシアの戦費を断ち切る目的は果たされていない。
ー 2011年にノルドストリームが開通した。欧州各国がロシアの天然ガスに依存する一方で、ノルドストリームの開通によりウクライナを経由するパイプラインのガス供給は半減。ウクライナではロシアとの外交カードの効力が低下した。2014年にウクライナで親欧米派の新政権が発足すると、ロシアはウクライナに侵攻してクリミア半島を併合。2022年にはより大規模な軍事侵攻が始まった。侵攻後はロシアからのガス供給が激減。同年9月にはノルドストリームが何者かに爆破され、さらなるがス供給の減少につながった。
ー 原子力発電の燃料となる低濃縮ウランを生産できる国は限られている。高度な濃縮技術を保有し、ウランの濃縮処理を低コストで実施できる一部の企業だけが、世界中の原発で消費されるウラン燃料を生産している。なかでも圧倒的なシェアを占めているのがロシアのロスアトムとその子会社である。原子力発電の発電電力量が世界1位であるアメリカも、ロスアトムから低濃縮ウランを調達している。
ー リチウムイオン電池の正極には、リチウム以外のレアメタルも使用されている。正極材は構成する鉱物の組み合わせでいくつかの種類に分類されるが、需要の高い三元系リチウムイオン電池やNCA系リチウムイオン電池には、コバルト、ニッケルなども必要となる。
ー リチウムイオン電池において負極材として使用される黒鉛(グラファイト)においても中国が世界で圧倒的な生産シェアを占めている。
ー 日本はリチウムの自給率がほぼ0%であるため、ほとんどを輸入に依存している。炭酸リチウムはチリから約70%を輸入。水酸化リチウムは中国から約80%を輸入している。日本でもリチウムの主要な用途は、EVやPHV(プラグインハイブリッド車)に搭載するリチウムイオン電池である。
ー リチウムやコバルト、レアアースといった重要鉱物の調達で脱中国に取り組む動きであり、IPEFの枠組みの中で安定した供給網の確立を目指していく。今後は資源の開発や精錬技術の提供などでも連携が期待されている。IPEFにはアメリカだけでなく、オーストラリアやインドネシア、フィリピンなど重要鉱物の主要生産国も参加しているため、鉱物資源の乏しい日本にとっては有益な枠組みとなる。
メモ書きはまだまだある。お腹いっぱいだ。