ユーザーレビュー 生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 中沢弘基 宇宙の誕生、太陽系の誕生、地球の誕生、生命の誕生。なぜ、こんな世界が存在しているのかは永遠の謎。生命の誕生と進化は、地球内部の熱の放出に伴うエントロピーの低下という物理の一般法則による必然である、という発想に納得してしまう。いろんな説があるが、確率的に信憑性が高そう。 Posted by ブクログ 生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 中沢弘基 気軽に読み始めたら未知の世界過ぎて面食らった。自分は化学に弱いことを痛感させられたが、非常に興味深い読物だった。特にホモキラルだのラセミだののあたり、物理界の対称性の話題はお馴染みだが、化学にも左右の概念があったとは。ぜひ覚えておきたい。 まず、筆者は「生命は海で生まれた」という常識を徹底的に否定...続きを読むする。理由の一つとして、水中では加水分解が進むためむしろ分子進化には適さないことが上げられる。 筆者の説は独自のもので、広く受け入れられた学説とは言い難いようだ。まだまだ推論を重ねただけという部分もある一方、一部は非常に説得力を感じる。 ●「生物はエントロピー増大化法則に反している」 よもやこのパラドックスを説明する論説があったとは。曰く、地球はその誕生以後熱を放出し続けている→全体としてのエントロピーは増大している→地球自体は冷える→地球のエントロピー低下→地球内は秩序化する。つまり地球規模で考えれば生物とは、地球誕生時の軽元素が秩序化した結果である、と。 もっともこれは「そう考えれば説明できる」というだけで、証明されているわけではないし証明できる事柄でもないだろう。どちらかというと概念的な問題に思える。 ●初期の生命は細胞内共生による進化があったため、親から子への遺伝子を辿るだけでは、「最初の生命」には辿り着けない。 ●”有機分子ビッグ・バン説” 前提:”還元的”環境であればアミノ酸など生物有機分子は発生しやすいが、原始大気は”酸化的”だった。 筆者説:隕石の後期重爆撃によって生じた蒸気流は一時的に”還元的”になる。この瞬間に生物有機分子が大量生成された。 ●生物有機分子の地下深部進化仮説 高分子化は海洋堆積物の地下深部での続成作用による。 ●プレートテクトニクスの結果、生命誕生。 ”膜で囲まれた小胞”つまり「個体」の成立→”小胞融合”つまりエントロピー「代謝」→分裂による自己複製つまり「遺伝」 これで「個体」「代謝」「遺伝」という生物条件を満たした、すなわち「生命誕生」である。 Posted by ブクログ 生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 中沢弘基 我々が地球の子であることが証明されている。有機分子のビッグバンが起こったことにより、地球で生命が誕生したと説明している。 有機分子のビングバンとは概ね次のようなことらしい。 40〜38億年前に隕石の海洋衝突による”還元的”な衝撃後蒸発気流の中でアンモニアが大量に生成される。そして、”後期重爆撃”の...続きを読む時代には、一度隕石が衝突した付近の海域に再び隕石が衝突し、アンモニアやカルボン酸、あるいは炭酸水素アンモニウム、アミンやアミノ酸などが原料となってより複雑な有機分子が生成された。 また、熱力学第二法則に基づき、「生命の発生と生物進化は、地球のエントロピーの減少に応じた、地球軽元素の秩序化(組織化・複雑化)である」としてる視点も面白い。 Posted by ブクログ 生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 中沢弘基 「生命誕生」という大テーマに挑んだ野心的な書籍。新書形式だが、その内容はかなり重厚である。 生命の誕生から、その進化の探求については、近年ではニック・レーンの2009年の著作『生命の跳躍 - 進化の10大発明』という非常に野心的な良書がある。著者もレーンも、生命の誕生のもとになる有機分子の発生メカ...続きを読むニズムについて、雷による化学反応で有機分子が生まれるという有名なミラーの実験を否定している。レーンは、前掲書にて海底での熱水噴出孔説を採ったが、著者は「隕石衝突よる有機分子のビッグバン」および「分子進化の自然選択説」という独自の仮説を採る(熱水噴出孔説を著者は明確に否定している)。著者の説は、約40億年前に、隕石の大量の衝突があり、それが有機分子の大量の生成につながったというものだ。著者は実際に隕石衝突を模擬した実験で、アミノ酸の部品に相当する有機分子が多量にできることを示している。 また、有機分子から生命への進化についても、他の学説とは異なる「生命の地下発生説」を採るのも特徴的だ。 「「生命はどこで誕生したのか?」との御質問が、生命機能を開始した最後の段階を指すとすれば、答えは「海底の地下の、熱水の通る厚い堆積層の中」だと言えます。それら“原始生命体"は、遅くとも34億年前には地下の厚い堆積層の中に「地下生物圏」を造って、次に海洋に出て適応放散する機会を待っていたでしょう」 というのが著者の答えだ。この説を受け入れることで「「生物有機分子がなぜ水溶性で粘土鉱物親和的か?」の謎は、歴史的事実の逆で、「水溶性で粘土鉱物親和的な有機分子だけがサバイバルして生命の素になり得た」」と言うことができるとする。自分はそれが謎であることも知らなかったが、そう言われるとそんな気がする。とにかく著者がそう信じていることによる力強さを感じる。 著者の学説が魅力的に思えるのは、生物の発生と進化を、熱力学と自然選択という基本原則によって説明を試みている点にある。著者によると「分子も生物も、そして固体地球も、すべからく進化は熱力学第二法則に従った現象だ」と言う。そして「進化の物理的必然性はエントロピーの減少をともなう地球の熱放出であり、分子進化の諸反応を整理する"軸"は全地球史だ」と言う。著者の説が正解かどうかは自分には判断する知識はない。著者本人もまだまだ未知領域が拡がっている、と認識している。ただ、生物誕生の必然性を提供してくれる魅力的なフレームワークであると思う。有機分子の発生に隕石の衝突が出てきて、代謝機能やRNA/DNAの出現に際してプレートテクトニクスが出てくるその説は非常にダイナミックだ。 著者は当初、生命の起源というテーマに当たって「ミラーの実験、リボザイム、RNAワールド、タンパク質ワールド、古細菌、生物三界説、セントラル・ドグマ・・・・・・などなどなど、生命の起源をめぐる膨大な知識に溺れていて、研究の手掛かりがつかめなかった」と言っている。そこから思考を巡らせて辿りついたのが、本書で何度か登場する「地球軽元素進化系統樹」である。この図の理解がこの本の理解のポイントではあるだろう(小さくてよく読めないのだけれど...)。 著者の仮説がこの後、主流のパラダイムになるのかどうか、はっきりいうとわからない。あと何年かした後に、その検証とアップデートをぜひお願いしたい。そもそも今でもどのように学会で扱われて評価されているのかもわからないのだが。 Posted by ブクログ 生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 中沢弘基 無機・有機化学、地球物理が示唆している事実を積み重ね、大胆で新たな生命史像が提示されている。RNAワールド仮説をはじめとする生物学の「定説」を覆すことに成功している。これまで読んだ生物系の本とはアプローチが異なり、非常に面白かった。未解明の部分を明確化したことの意義も大きい。参考文献が丁寧についてい...続きを読むるのも新書とは思えないクオリティだ。 ・古代の磁性鉱物の向き。地球磁場の化石という見方。大陸移動説の確立。 ・生命の発生は地球の熱の放出に伴うエントロピーの減少という物理の一般法則の結果。だからこそ他の天体にもありうる。 ・バクテリアには生物進化の初期だけにある「細胞内共生」という進化の別の機構があり、遺伝子分析の方法ではその先がたどれない。 ・遺伝子は量子力学の支配する「分子」でなければならない:シュレディンガー ・「生物有機分子がなぜ水溶性で粘土鉱物親和的か」の謎は歴史的事実の逆で、「水溶性で粘土鉱物親和的な有機分子だけがサバイバルして生命の素になり得た」。 ・有機分子が地球上に生成しても、海水では多量の水に希釈されて、反応に必要な濃度にならず、重合して高分子になることはできない。 ・「太古の海は生命の母」の呪縛に縛られて、いかにも原始的な熱水環境で古細菌が見つかったことで、熱水噴出孔こそ生命発現の場かもしれないと期待してしまった。 ・アミノ酸など生物有機分子は、還元的な海洋堆積物の続成作用による高圧・高温の脱水環境で、自然に重合して高分子になる。 ・いくら仮定を増やしても、宇宙起源説では、生命が発生するほどの種類と量の生物有機分子がどうやって蓄積したのか、説明できない。 ・まず小胞群が代謝機能を獲得して、続いて自己複製機能を獲得した。しかし、この逆のRNAのような遺伝情報を担う巨大分子が先にでき、後に代謝機構を獲得したするシナリオには、説明不可能な問題や矛盾がある。 ・地球軽元素は、みずから生物となるまで、分子のときは結合、高分子のときは複合化、そして小胞となってからは融合など、いずれも結合や合体や融合することで、それぞれの環境をサバイバルし、同時に軽元素のエントロピーを下げて、地球冷却の要請に応えてきた。 Posted by ブクログ 中沢弘基のレビューをもっと見る