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バーナビー・ラッジ
第一の魅力はプロットの網を巧妙に張りめぐらした物語の面白さである。ことにヘアデイル邸の惨殺事件をめぐる部分は、完全な推理小説。ポーが最初の部分を読んだだけで、トリックを見破ったと豪語したのは有名な話だ。人物造形の面白さはどうかというと、ゴードン卿の描写をはじめ、実在・架空を問わず、ディケンズ独自の細密画のようなペンによって、見事に提示されている。特に絶品なのは女性、しかもいやな女の描写で、ヴァーデン夫人やミッグズなどは、一緒に暮したら生きているのがいやになってしまうだろうが、読んでいると金縛りにかけられたような魅力を感じざるを得ない。本作の主人公はいつの間にか英雄になってしまうバーナビーであろう。最初の主人公である理性の人ゲイブリエルがバーナビーという白痴にその名誉ある地位をあけ渡したのは、作者が作品全体のライト・モティーフを、理性から狂気へと変えて行ったからに違いあるまい。(訳者あとがきより) -
ボズの素描集
「この本には、天才の溌剌とした最初の躍動が疑いもなく感じられる…どこを開いても、のびやかに、完全な技巧でもって題材が扱われている。全編を通して示される観察力は驚異としか言いようがない」とディケンズの親友は書いた。本作は豊かな想像力、鋭い観察眼、ユーモア、特異な人物描写、語りの面白さ、さらには深刻な社会認識といった、ディケンズ文学のあらゆる要素をはらんでいると同時に、一八三〇年代の社会生活の貴重な記録として、独自の地歩を保っている。通常誰もが気にとめることのないありふれた対象は、ディケンズの想像力によって豊かな色どりを付与され、笑いや涙や怒り、さらには恐怖心を呼び起こすものへと変貌する。ディケンズ24歳のとき、まとめられた処女作! -
マーティン・チャズルウィット
恐ろしいほどの利己心がチャズルウィット一家の特徴である。マーティン老は、周囲の人間はみな自分の財産を狙っていると疑う。信頼するのは孤児メアリーだけだ。だが孫のマーティンは、メアリーと密かに婚約し、老人に追い出される。孫も自己中心的で、縁戚にあたる建築家のペックスニフの元に身を寄せる。このペックスニフは徹底した偽善者だった。マーティンを迎えたのも、むろん欲得ずくだ。彼の仕事も、かつての生徒で彼を師と仰ぐトムに任せていた。ある日ペックスニフと2人の娘は、マーティン老から、孫が勝手に婚約したので追い出したと聞きショックを受けるが、老人の希望どおり、青年を体よく追い出す。宿無しとなったマーティンは、アメリカで一旗揚げようと考える。メアリーと最後の逢瀬を楽しんだあと、マーティンはアメリカに向かう。イギリスでは、マーティン老の弟のアンソニーが急死する。アンソニーも利己主義者だったが、その息子ジョーナスも同様で、父親の居場所は棺の中が最適だと考えるような人間だった。葬式の後、ジョーナスは打算からペックスニフの次女マージーと結婚し、濡れ手で粟の詐偽商売に肩入れしはじめる。ペックスニフにはマーティン老の衰えがわかった。彼は遺産を確実に手に入れようと、メアリーに言い寄る……人間の暗部とこっけいさを徹底して描ききったディケンズの代表作のひとつ。長谷部史親氏は「作中における人物造形の巧みさと場面ごとの面白さ、犯罪にかかわる謎の要素が推理小説を思わせる」と述べ、本書を高く評価している。 -
リトル・ドリット
リトル・ドリットは、大人になっても小柄でか細い。しかも債務者監獄生まれ。ドリット一家は20年以上も壁の中で暮らしているが、彼女は体面だけは捨てない父ウィリアムを世話する日々を送っている。一方、中国での事業を畳んで帰国したアーサー・クレナムは陰気な生家を訪ね、そこにお針子として通うリトル・ドリッドを見かけ、その身の上を知るようになる。だが彼女の父親には疑問がわき、知り合いに、その借金について調べる事を依頼する。ロンドンの社交界には一大勢力がはびこっていた。その中心は官界・政界に巣喰うバーナクル一族、財界の巨頭マードルだ。踊り子として舞台に立っていたドリット家の長女ファニーはマードル家の息子に見初められる。クレナムは、発明家ダニエル・ドイスの共同事業に活路を見い出す。そんななか、リトル・ドリットには、驚くべき知らせがやってきて、一家は監獄から解放される。