■「off you go」
BLなのですが、女性を含めた三人の特殊な三角関係の物語。随所に回想シーンがあることで幼少の出会いから共にしてきた印象的な出来事が何層にも丁寧に重ねられていて、ともすれば感情移入し難くなってしまいそうな歪な関係に魅力的な説得力を持たせてしまう筆の牽引力は凄まじい。
恋愛面では良時が過去の分岐点に思いを巡らせていくうちに重い蓋をしてきた気持ちが徐々にはっきりとした輪郭を得ていき、密の香港での失恋の告白をトリガーに激情となって現れる構成が巧みでぐいぐい引き込まれました。動揺と嫉妬から急激に気持ちを自覚した良時の「俺の、密」には胸を締め付けられ、終盤に密が十和子に良時の好きなところを口にする場面には震えました。
そして、タイトルが三者三様の思いを象徴していて素晴らしい。回想シーンと現在で三人それぞれ「行けよ」「行っちまえ」「行って」と言う(思う)場面があるのですが、その全てのエピソードにどうしようもなく心を掴まれました。密と良時の発した互いを遠ざける決断の象徴の“off you go”が、十和子の決断によって解放の意味に変わり、これまでの三人の苦しみが溶かされる瞬間は夜明け前のような美しさを感じました。
■「I L××E You」
密視点の幼少期~現在までの記憶の断片集。特に養命酒と柘榴のエピソードがすごく好きです。このまま進んでいたらあわや…の雰囲気にドキドキした、その直後の密の切なさのギャップにやられました。不敵に見える行動の裏で、無自覚で鈍い良時に翻弄されていて歪んだ熱情をもて余していた密がとてもいじらしく感じました。
■「off we go」
経験値がある手練れた二人のなんともアダルトな空気のラブシーンが好きでした。普段お人好しすぎるほど優しい良時が密に対してだけ見せる劣情に、内心密はたまらなくきゅんきゅんしているんだろうなというところが、すごく萌えます。
■「sofar so good」
「ステノグラフィカ」でメインの西口がちらっと登場。密に無視され良時に軽くあしらわれてしまうところがめちゃくちゃツボでニヤニヤしました。密の「お帰り、ダーリン」がかわいいです。