「好き」に心が震えた名作。
ブックライブさんでレビューを書くのは、これが初めてです。
珠森ベティさんの作品は現代ものも拝読して、とても魅力ある作品を描かれる漫画家さんだと思っていました。
本作品はまたガラリと設定が変わり、おとぎ話に迷い込んだようなふわふわした感覚のファンタジーでありつつ、それだけでは済まさないのだろうという予感とのギャップに期待もありました。
一見は能天気とも思えるステラ嬢ですが、心の芯が強靭な女性であるヒロイン像も素敵です。徹底した優しさの裏にあるタフネス。
厳しい状況において優しく在り続ける人は、強い人に他なりません。
また、そうしたヒロインでなければ到底、永い年月を暗い闇の中、孤独に過ごして冷え切った吸血鬼・ラビの心を射止めることもなかったでしょう。
絶望して人に期待しない心理は自己防衛。
そして、彼の傷の深さの表われでもあります。
悪役を生まれながらに押しつけられ、家庭の温もりも知らずに育ったことなどを思えば、無理もない話です。
だからこそ、小さく強く輝く「ステラ」は、彼の赤い瞳に何より眩しく映ったのだと思います。
ようやく明るい世界に踏み出した矢先、我を忘れステラに乱暴な吸血行為を働いてしまったラビの心はまたもや暗転。
希望を抱き始めていたから猶の事、暗転による絶望の深さは計り知れないものとなります。再び凍てついたラビは、ステラを拒絶します。
もう傷つけたくない。
もう傷つきたくない。
彼はまるで、怯える子供でした。
そこに食い下がるステラ嬢の姿は髪の毛もボサボサで、顔もくしゃくしゃでした。必死の形相だと見るからに判ります。
美しく着飾ってもいない、丁寧に施された化粧もない。
ラビに告げた言葉も、たった一言。
「好き」
あなたが好きという、それだけを繰り返す。
美しく洗練された詩のような愛の告白ではなく、素朴で真っ直ぐな、実にステラ嬢らしい言葉でした。
目を瞠ったラビ。
女性はかくも強く可憐な生き物です。
凄いな、と思いました。
ステラの心情もラビの心情も、ダイレクトに無理なく伝わる。
画力、想像力、表現力。それら全てが備わっていなければ、こんな場面は生まれなかったでしょう。
久し振りに心が震えました。
各キャラクターの人物像も丁寧に考えられていますね。
それぞれの心情を読者に伝える為に、台詞がないコマも多い。けれど必須のコマ。
舞台の観客になったような、極上のひと時に浸れます。
心より感謝を。応援しております。