【感想・ネタバレ】ウミガメは100キロ沖で恋をする 絶滅から救うため「ウミガメ保護」と45年間闘ってきた男の全記録のレビュー

あらすじ

「養殖で一儲けしよう」と小笠原のウミガメの世界に飛び込んだ菅沼青年。
しかし、養殖では採算がとれず「守る、増やす」ことに方向変換。
小笠原諸島からインドネシアまで、ウミガメと「放浪」して45年。
「ウミガメを守りたい」「かわいそう」という思いだけではウミガメを救うことはできない」が持論で、「ウミガメを保護したいという思い込み、つまり誤解がウミガメを危機に陥れている原因になっている。そもそも人はウミガメを保護できるほどの知識も能力も持っていない」という。

NPO法人ELNAを立ち上げ、「僕らがかかわった地域のウミガメは絶対に絶滅させない」そんな思いで、熱帯の海岸を歩き回り、産卵巣をがむしゃらに掘りまくり(もちろんふ化後)、海岸に打ち上がったウミガメの死体をバッサバッサと切りまくり、ときにはウミガメの研究者と交渉(というかケンカ)する日々を送っている。

本書は、そんな著者が歩いてきたウミガメの世界を紹介するとともに、ウミガメを保護する風潮と闘ってきた男の軌跡をたどるノンフィクション。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

このページにはネタバレを含むレビューが表示されています

Posted by ブクログ

ネタバレ

タイトル通り、ウミガメの本。
100キロ沖で恋をするのは、オサガメだけで、その他の6種(アオウミガメ、アカウミガメ、タイマイ、オリーブヒメウミガメ、ケンプヒメウミガメ、ヒラタウミガメ)は違うらしく、へぇ~へぇ~の連続でした。
表紙や冒頭のウミガメ図鑑(特に、アオウミガメ、アカウミガメのイラストを何度見ても区別つかない)も、ポップでかわいいですが、もう地球環境にって、ヒトが絶滅しないと回復しないのでは!?と、絶望的な気分になります。
「タイマイの生息数すら分らない状態で経済を優先させた商社」「東南アジアのタイマイ養殖可能性調査と称して数年間、海外で遊びほうけてデータすら出さない著明な学者」「輸入量をコントロールせずに、ずさんな調査を許していた当時の通産省」と序盤から、ぶち噛まします。
 ウミガメの減少に関する誤解や著者の仮説として面白かったものは
・マグロはえ縄漁での混獲がオサガメの原因ではない(オサガメ全体は減少しているが減っているのは太平洋だけで、大西洋は違う。はえ縄はどこでもやっている)
・日本で生まれた稚ガメは、3~4年かけてカリフォルニアに行き10年ぐらい過ごす。が、回遊のコースはよくわかっていない。
・ウミガメの保護と称して「全卵移植」を行っている地域で、増えているところは一つもない。卵の人為的な移動は全くの無駄(!ここが一番へぇ~と思ったところ)。
・ウミガメの卵は、砂浜の酸素と触れると発生が”再開”される。実は、母カメの体内にいる時から発生が始まっており胚が1mmくらいで一時的に停止する。卵が産みつけられた直後から発生が再開し上下が決まる。上下が決まった状態で垂直回転すると、正常な発生が妨げられ孵化率が下がる(おそらく垂直回転により胚の位置誰ずれて正常な呼吸ができなくなるのだろう)。
・ウミガメの母浜回帰は、孵化前後に、生まれた場所の地磁気情報がインプリンティングされて、地磁気情報を頼りに戻ってくる。

いやー、卵を守る(と思って移植する)ことが、直接的にウミガメを増やすことにつながってないという事実が衝撃です。ウミガメの環境を守ることがいい、というかそれしかできないのですね。しかも成熟するまでに、小笠原のアオウミガメも45年くらいかかるらしいですし。

その他、マイクロプラスチックによる海洋汚染とか、パプアでの政府関係を巻き込んだ、現地大学と米国団体とのつまらないイザコザなど、腹立つこともありつつ、むしろ現地人に入り込んで、卵を盗掘する人をむしろ雇って卵を監視する役につけたり(どろぼうは、盗むものの在りかを一番知っている!)、波乱万丈です。
個人的には、ウミガメの心臓が不完全な2心房2心室になっていて、三日月上に心室中隔欠損があり、その欠損孔から静脈血と動脈血が混じるので、むしろ長時間の潜水ができる、という解剖学的な話も興味深かったです。

何よりも「論文などを様々情報を集めて理解する必要があり、得られた知識を解釈しながら、自分たちが活動している現場から得られた情報と結びつける努力が常に必要だ」という、いわゆる”本気の取り組み方”は、普遍的なものを感じました。グッドです。

0
2022年02月20日

「学術・語学」ランキング