あらすじ
あらゆる事象はゆくりないめぐり逢いであり,その邂逅の源泉に原始偶然が厳存する――.古今東西にわたる驚嘆すべき文献的研究と実質的具体的な現実観察に拠り,偶然性を定言的偶然,仮説的偶然,離接的偶然の三つに大別してユニークな形而上学的思索を展開し,偶然性の本質を解明した九鬼周造(1888―1941)の主著.(注解・解説=小浜善信)
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Posted by ブクログ
「偶然」の様々な様態を、本書ではひたすら分類する。偶然は必然と対であろうと、必然の分類に基づいて、その反照として偶然を区分してゆく。
九鬼周造は西洋哲学においてこれまであまり注目されてこなかった「偶然」をしっかりと知的に定位したかったのだろう。この作業によって哲学史の隙間は埋まり、西洋的知が看過してきた部分が浮かび上がってくる。そう自負していたに違いない。
もっとも、本書の大半は偶然の分類に明け暮れており、偶然なる物への凝視がもつ知的意味については、最後の方でわずかに取り上げられる。特に芸術・文学において偶然性がいかに重要なファクターであるかを指摘している箇所はなかなか面白い。このような考察を深めて、もう1章付け加えてほしかったと思う。偶然性をテーマとした他の九鬼周造の小論を合わせ読むことが必要だ。
それでも、本書がたいへんな労作であることは確かだ。この努力がいかなる価値を持つのか、九鬼が切り拓いた知の領域は閉じていない。