【感想・ネタバレ】共感という病のレビュー

あらすじ


内田樹氏、石川優実氏とのロング対談収録!

ビジネス、政治、恋愛、趣味――
至るところで重要視される「共感」。
その負の側面を明らかにし、
あるべき向き合い方を考察する。

【はじめに】より抜粋
共感はこの社会において、人々を繋げ、連帯を生み出し、時には社会や世界を良くしていくものとして、基本的にポジティブに語られています。
そしてそれのみならず、日々の人間関係においても共感の重要性は語られますし、ビジネスの領域においてもマーケティングからプレゼンテーションまで、一つの鍵となっています。

しかし同時に、私たちは共感といったものの胡散臭さも感じてきました。東日本大震災に対する「絆」に始まり、ラグビーワールドカップでの「ワンチーム」、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた「団結」など、それ自体は素晴らしいアイデアではありますが、どこかそうした美しい概念が本来の目的を超えた何かに対して恣意的に使われてきた節もありました。

たしかに「絆」や「ワンチーム」「団結」の内部は、最高に気持ちが良くて恍惚すらできるものですが、よく見てみると、その中にいない人がたくさん存在していることに気が付きます。むしろ外側にいる人に対して排他的であることも珍しくありません。「共感し合おう」「繋がっていこう」と言うと、なんとなく無条件に良いものである気がしますが、繋がっていくからこそ分断していくとも言えるわけです。

私はテロと紛争の解決というミッションの下に、テロリストと呼ばれる人々の更生支援やテロ組織と呼ばれる組織との交渉などを仕事としていますが、こうした仕事の中で、いかに共感の射程が狭いかということを嫌と言うほど味わってきました。
そうした立場として、言えることはないだろうかと考えました。共感に関する研究は、脳科学的な研究をはじめにさまざまありますが、共感に向き合う実践から生まれる見解や、より実践的な意見というものもあるはずだとも思いました。
そんな想いで共感に関する本や論文を読んだり、識者の方々と対談をさせていただいたりして、自分の考えを深めていきました。その結果、今回このような書籍となりました。

私は共感が全て悪いとは思っていませんし、そんなことを言うつもりも毛頭ありません。むしろ社会と世界を良くするために間違いなく重要な要素だと思うからこそ、共感が持つ負の面を理解し、自覚し、うまく付き合っていく必要があると思うのです。
本書はそうした理解の下で、共感を考察し、共感の捉え方や共感以外の手がかりを考えるきっかけを投げかけていきます。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

本書は、ソマリアでテロ組織からの投降や投降兵・逮捕者の脱過激化と社会復帰支援等をしている著者が、一般的に良いものとされる「共感」の負の面を明らかにしている。

そもそも人は基本的にわかりあえないもの。
その中でどうしたら他者と共存できるのか考えていくべき。

内田樹さんとの対談も面白かった。

たくさんの発見を得れました!




■メモ:
・取り残されがちな社会課題(共感を得ることができない社会課題)はさらに取り残される。そしてそれを取り巻く社会が歪んでいく。

・自らの共感を他者に意図的に使われる怖さ。

・正論は別の視点からは正論でないことが常。

・何を考えていようが個人の自由。脱過激化でなくても、脱行為化していればいい。社会においては脱行為化を維持することが重要。

・私たちは多様性を受け入れることは難しい。「わかりあえない」を前提に、その中でどう他者と共存していくかを考えるべき。

・共感できない、共感されにくいをなおざりにしないために共感に代わるものが必要。それが「権利」。

・人権教育は学校では教えられない。「人としてどう振る舞うべきか」を子どもに刷り込むのは「家風」。子どもたちは親の背中を見て、人間としての生き方を学ぶ。それは教科書で教えることじゃない。

・知性というのは個人のものではなく、集団的に発動するもの。集団的に知性的でなければ、知性は機能しない。

・集団は「弱い者」を支えて、助けるという仕組みのときに最も高い機能を発揮する。弱者を支援する仕組みを整備している集団が強い。

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2021年10月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

共感という概念に興味があり、タイトルから共感のネガティブな側面が紹介されると思い読んでみた。本書は、共感の負の側面、その向き合い方、紛争地での実践(戦略的対話)という構成で、非常に腑に落ちる内容だった。

特に印象的だったのは、過度な共感が承認欲求の肥大化につながり、異なる意見に対する攻撃を生むという指摘。この構造を読んで、カルト宗教の勧誘や、昭和的な企業文化の同質化圧力を思い出した。自分自身もジョブローテーションを当然のものだと刷り込まれた経験があり、共感が“正義”として暴走する構造に強い納得感があった。

本書が示す共感に振り回されないための向き合い方は次の三つ。
1.自己理解から始めること
2.物事を白黒つけすぎないこと
3.共感されなくても、つながっていなくても大丈夫と理解すること

特に三つ目は、共感の強要が目立つ現代社会に対する重要な視点で、個人的にも心が軽くなった。

また、著者が紛争解決の現場で行ってきた「戦略的対話」の話も興味深い。相手を説得するのではなく、理解することに重きを置くコミュニケーションで、わかりあえない相手とどう向き合うかについての実践的な示唆に富んでいる。

全体として、共感の負の側面と向き合い方をわかりやすく説明し、さらに紛争地の経験から語られる共感の話も非常に面白い。読者を飽きさせない一冊だと感じた。職場で共感されにくいと言われがちな人と仕事をする時にも、この学びを活かしたいと思う。

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2025年12月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

audiobookでおすすめされて一気読み。
P73 「加害者側に目を向けることが問題解決において不可欠である上に費用対効果がも高い」というキーワードが、読んだばかりの「水俣天地への怒り」で「いじめている側への視点」が挙げられており、共通しているなあと思って興味を持ったのがきっかけ。

最後の内田樹さんとの対談がとてもよかったので、備忘録にメモ。
・子どもに道徳を教えるのは、親の背中
・「測隠の情」は、つい手を差し伸べてしまうので、生まれもった「感情の器」の違いである
・弱者を支援するする仕組みが必要
・合意京成には、三方一両損が必要。
・それぞれの場所で、自分に割り当てられた仕事を果たす。
・あそこでも誰か頑張っている人がいる、だけでも人間ってずいぶん強くなれる。

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2025年10月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これを読もうと思ったのは、
数か月前から起こっていた性加害のニュースを見て。
私はKinKiKidsのファンなのですが、
とても心が痛くて辛い数か月でした。苦笑

SNSを開けば罵詈雑言の嵐で、
人を傷つけるだけの鋭い言葉や
それぞれの立場からの
憎悪、悪意が見えるような数十文字の言葉たちが。

てるだけで苦しくなって
落ち込むのはわかっているけれど、
見るのをやめられなかったり、目を逸らせなかったり。

そこで積読の中から本書を手に取りました。
タイトル通り、
誰かの言葉や空気が
人を煽動する力について
永井さんの考えを聞きたくなりました。

結果、付箋だらけの一冊に。苦笑
(私は本に直接書き込むのが好きではないんです)

「認知的共感」と「情動的共感」。
被害者の代わりにという大義名分。
不特定多数でボコボコにするのはリンチと同じでただただ恐ろしい。
気に入らない相手はひたすら叩いて連帯していくことは、対立と分断を招く。

ソマリアで支援活動を行い、
日々、人命や自身の生命について
向き合っている人の言葉だと思うと、
問題や課題の大きさは違っても、
人間の考えや行動は一緒なんだなと改めて思わされました。

行き過ぎた強い共感は、
新たな対立と分断を生みだす。

本書を読んで、
私もこの数か月ずっと考えてました。
SNSでの強烈な言葉や
共感を迫られることへのストレス、
世界中で勃発する紛争や戦争。

感情も大切だけど、
理性とのバランスが大切。

私自身が揺れがちなので、
たまにパラパラと本書を読み返したいと思います。

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2023年10月29日

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