【感想・ネタバレ】サラ金の歴史 消費者金融と日本社会のレビュー

あらすじ

個人への少額の融資を行ってきたサラ金や消費者金融は、多くのテレビCMや屋外看板で広く知られる。戦前の素人高利貸から質屋、団地金融などを経て変化した業界は、経済成長や金融技術の革新で躍進した。だが、バブル崩壊後、多重債務者や苛烈な取り立てによる社会問題化に追い詰められていく。本書は、この一世紀に及ぶ軌跡を追う。家計やジェンダーなど多様な視点から、知られざる日本経済史を描く意欲作。

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Posted by ブクログ

最近消費者金融はどうなっているんだろうと感じていたところに、良い本と出会えた。原点となる個人間金融からの流れと技術的な進化、社会の変化が捉えられていて良い読書だった

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2025年05月12日

Posted by ブクログ

圧倒的な情報量に読むのにとても時間がかかった。
読んでいて面白かったし、あとがきに身内の名前とか出してるのぐっとくる。

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2025年05月11日

Posted by ブクログ

ネタバレ

新書大賞2022を受賞した非常に評価の高い一冊。営利企業であるサラ金が貧困者のセイフティネットを代替していた「奇妙な事態」の背景を、サラ金の金融技術の革新、業界に関わる人の視点によって解き明かした本であり、サラ金を切り口に日本近代史を切り拓いた本でもある。幸いな事にサラ金に無縁の人生であったが、飽きる事なく興味深く、また、批判的になりがちなテーマを抑制的に中立的に記述されており冷静に読み進められた。サラ金の陰だけでなく光についてもしっかりと理解できた。最後まで読んで気付かされるのは、サラ金は批判の矢面に立たされたが、その背後にいるのは銀行である。この融資の原資は私たちの預金であり、私たちも無関係ではない。最後に驚きの気づきであった。
サラ金業界の逆風がその後の状況の変化で逆に追い風になったり、追い風がその後に逆風となるというような因果の複雑さなど学びになる事も多かった。

【第1章 「素人高利貸」の時代】
戦前は親戚や貧民窟住民、サラリーマン同士といった担保のない者に対して近しい者が行う、日掛の素人高利貸が盛んであった。

【第2章 質屋・月賦から団地金融へ】
戦後、都市サラリーマンに対する信用向上により、団地族を中心に家電の3種の神器の月賦購入や自動車などの消費者ローンが盛んとなった。家計は耐久消費財の購入資金の借り手としての存在感が大きくなった一方、生産拡大の融資を優先する政府の金融政策により、消費者融資はサラ金が担う事となった。その団地金融を始めたのが、サラリーマン金融を元に起業した者達だった。社宅の、または公団による厳しい入居審査にパスした住人には信用調査が不要、という判断は合理的と感じた。しかし「夫に内緒で貸し付ける」高リスクと「現金の出前」という高コスト体質により姿を消す。

【第3章 サラリーマン金融と「前向き」の資金需要】
アコム・プロミス・レイクの創業者達は、創業前に金融業に従事した経験を持ち、団地金融から学んだ人達であった。また美辞麗句を理念・理想として掲げ、表の金融にこだわった。生活費の不足は生活の欠陥だから貸さない、レジャー資金は健全資金だから貸すという判断は面白い。

【第4章 低成長期と「後ろ向き」の資金需要】
多額の内部留保を持つ企業の銀行融資の依存度の低下と銀行の貯蓄超過により、サラ金が銀行の融資対象となった事でサラ金の規模は拡大していった。一方、財政金融政策の引き締めとオイルショックによる景気低迷時期、サラ金はエリートサラリーマンの男性(前向きな借入)だけでなく、女性や低所得者(後ろ向きな借入)へも融資対象を広げ、消費者金融へと脱皮した。その女性を取り込むために始まったのがポケットティッシュの配布であった。更に業界の競争激化のため、各社は審査基準を緩和して「底辺」を押し広げ、結果としてサラ金がセイフティネットの代替となった。各社のブラックリスト共有システムの構築が底辺への融資のバックグラウンドにあるが、巨額を投じてコンピュータを導入したものの誤作動が多かったため、敢えて手書きのカードに先祖返りした事が却って精度と速度が増したという事実には学ぶものがある。同時期に団体信用生命保険がサラ金にも導入され、貸し手・借り手ともにモラルハザードが発生した。例えば、2006年に大手消費者金融が受け取った団信の保険金のうち25%が自殺によるもの。同年、大手サラ金各社は団信を廃止した。過酷な取り立てが問題となり立法化を試みたが断念された。外資や銀行、大手百貨店の参入は逆風どころか却って業界全体のイメージアップになったのは皮肉である。大蔵省が国内銀行の融資を制限した結果、外資銀行の融資を受けて成長し、焦る国内銀行から有利な融資を受けて大手は更に拡大していくなど、短期的に良いと思われる政策が長期的には逆に作用したのは面白い。

【第5章 サラ金で借りる人・働く人】
サラ金各社の融資残高の拡大により、借り手の自殺や心中、家出などが増加し、第二次サラ金パニックと呼ばれた。債権回収では「効率よく怖がって貰う」ために「おっかなそうな格好」をしていたという、服装の嗜好ではなく合理性というのが面白い。被害者を多く出したことにより借金問題を扱う弁護士に安定した収入をもたらし、被害者運動が継続されたというのも皮肉である。この時期に弁護士の運動により債務者に「自己破産」が有力な解決策となり、貸金業規制法も成立した。上限金利の引き下げのみならず、国内銀行へサラ金への融資抑制の通達や外国銀行の融資引締も起こり、サラ金業界は冬の時代に突入し、倒産も相次ぐようになった。大手サラ金は生き残りのためメインバンクを持つようになり、その結果、銀行システムに組み込まれた。また、冬の時代を乗り越えるため、人材教育や与信システムの導入、組織改革、リストラにより飛躍に向けた体制が整う事になる。ここでも危機の克服が次の飛躍にむけた準備となっている。学びが多い。

【第6章 長期不況下での成長と挫折】
バブル崩壊による不良債権処理に苦しむ銀行とは対照的に、バブルをほぼ無傷で乗り越えたサラ金各社は1990年代に飛躍を遂げた。同時期、技術向上により自動契約機が登場し、各社の店舗数と顧客増大の起爆剤となった。念願の株式上場も果たして市場からの資金調達が可能となるだけでなく、社会的信用度も向上。また、サラ金のCMも解禁され、若年層や女性増加などの潜在顧客を掘り起こした。更に大手は経団連に加入し、名実ともに一流企業の仲間入りを果たすなど繁栄のピークを迎えた。しかし、融資残高の急増に伴って再び高リスク層への貸し出しを増やしながら激しく競争を展開し、貸倒れ金比率が高くなり凋落を始めた。また、長引く不況の悪影響は、サラ金業界にも確実に忍び寄りつつあった。審査基準の引き締めは、多重債務者にとって深刻であった。また、貸倒れ損失の穴埋めに新たに獲得した顧客も景気低迷の影響で返済不能に陥るという悪循環から抜け出せなくなった。暴力団をバックに持つヤミ金も問題になり、サラ金の社会的批判も同時に高まった。規制を求める世論に対し全国貸金業政治連盟を結成し、与党・党三役・大臣にまで献金により政界工作を行なった。政治献金についての議論は昔からされているが、このような事実からも完全禁止、百歩譲って透明化すべきと思う。同時に学者にアプローチして業界に都合の良い論文を出させている。有名大学の教授の言説は無批判に受け入れがちだが、冷静に判断するために日々の勉強が必要だと改めて感した。業界から献金を受けた議員が抵抗するも、直近の選挙の影響を考慮して規制に踏み切るが、これは選挙制度が有効に機能しているという事だろう。やはり選挙には行かなくては行けないと改めて思った。世論の流れで改正貸金業法が施行され、業界再編が一気に加速して銀行システムに組み込まれた。規制強化により、オレオレ詐欺等の特殊詐欺への転職、知人やSNSを利用した個人間金融の復活、その他の金融技術の革新は続いている。

この手の歴史本で資料が引用される際、カタカナ文語調の原文が記載され、辟易し読み飛ばす事もあったが、本書では平仮名現代語訳されており読みやすかった。専門書では勿論原文の引用が必要だろうが、一般読者向けの本では本書のような配慮をして欲しい。

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2025年01月25日

Posted by ブクログ

消費者に対する金融は大手の金融機関は昔は軽視していたので、信用力のない個人は身内などから入用の時は金銭を調達していた。そして戦後、個人間金融からサラリーマンという安定した月給を稼げる人を対象とした金融サービスが登場することになる。

業者は何を目安に与信を与えたかというと、当時ステータスのあった公団住宅に住んでいるという事実であった。この着眼点は慧眼であると言え、この団地金融から上場企業に勤める会社員、そしてあらゆる層に無担保で貸し付けるサラリーマン金融の発展していく萌芽となっていく。

サラ金業者が伝統的な金融機関とは別に独自の発展をとげられた理由は、外資規制と政府が企業融資を重視したため従来の銀行が個人融資に熱心ではなかったこと、そしてグレーゾーン金利の存在により法外とも言える大きな利益を得られたことにある。

様々な層からの資金需要により繁栄を謳歌した消費者金融だが、無担保故の高利率、命を最悪奪ってしまうような過酷な取り立てによる世間の批判から、政府も様々な対策を講じた結果、自分たちの資本だけでは事業が継続が困難になる機会に見舞われた。そして組織の生き残りを図るため、伝統的な商業金融機関に段階を経て組み込まれ現在に至るのだ。

結局アウトサイダー的な存在から、日本の伝統的な経済システムに組み込まれた過程を読んでいくと、世論を巧みに利用した行政の熟練の手腕を何となく感じる。成熟した産業に見られる、創業時のダイナミックさというのは無くなっていく中でも消費者金融は蓄積し洗練された与信技術、債権回収業務を通じて堅実な発展を遂げていくのだろうと思う。

そもそも消費者金融機関というのは、当時の政府の方針など、外的な条件が発展するためにちょうどよく、隙間産業的に産まれた産業だと読んでいて感じた。その条件が徐々に国家によって規制もしくは規制緩和によって無くなって行ったら、苛烈な競争を戦い抜くために高いレバレッジを利かした新興の消費者金融はたちまち経営が苦しくなる。そのためこの消費者金融の隙間産業性は日本の支配構造に取り込まれて行くのも必然だったのだろうとも思う。別にその支配が悪であると糾弾している訳では無いが。

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2024年02月29日

Posted by ブクログ

プロミスやアイフル、レイクなど、普段何処かで見聞きする所謂サラリーマン金融業者。そのルーツや盛衰について、貸す側、借りる側の両面を、戦前から現代までを整理、解説した良書。

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2024年01月28日

Posted by ブクログ

サラ金の歴史が時系列で説明されているだけでなく、その盛衰を経済、経営学の知見を交えて分かりやすく解説されている。サラ金のブラックな部分も交えながらも、極めて中立に解説されている良著でした。

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2023年06月16日

Posted by ブクログ

不肖、自慢ではないが20代の頃にがっつりアコムとモビット、銀行カードローンにリボ払いに質入を重用し、口座やカードを凍結されながらも辛々生き延びた体験を持つ私にとって実に思う所のある新書。
オビの問いかけについて、私にとっては紛う事なく「セイフティネット」であったと断言出来る。返済遅れた時の電話は怖かったけど、基本電話が鳴らない私には電話が鳴る事がちょっぴりだけど嬉しかったしまあまあの延滞っぷりだったからそりゃ怒りますよね。あの時に伴走してくれたのは家族でも会社でもなく担当窓口のお兄さんでした。いや、向こうは仕事だから仕方なくかもしれませんが。その節は誠に申し訳ございませんでした…。

内容としては(恐らく)他に類を見ない’日本サラ金史の総ざらい’と呼ぶにふさわしく、サラ金が「サラ金」として完成するまでの素人高利貸〜団地金融〜サラ金旭日期〜サラ金斜陽期〜日本の低成長とこれから、という各タームを日本社会史や家族史・政治史など実に多面から分析・研究した一冊。
「年利七万三〇〇〇%」(p267)という俄には信じ難い事例にはため息しか出ません。アコムの「らららむじんくん」や武富士の「シンクロナイズド・ラブ」をBGMに女性達が激しく踊るCMやアイフルの「くぅちゃん」レイクの緑の恐竜などなど、2000年代一桁の頃はお茶の間ゴールデンタイムにサラ金が実に身近なものでした。特に武富士はバラエティ番組でパロディコントまで放送されてましたね。「ザ・センターマン」って懐かしい。道端に「車でお金」とかの看板も実に沢山ありました。

という、妙なノスタルジーをくすぐりつつも真剣そのものにサラ金史をひらいた本書。ジャンルとしては大変ニッチかも知れないが実に読み応えある読書でした。

お金は大事だよ〜。ル〜ルル〜。(これはAFLAC)


1刷
2023.5.22

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2023年05月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

・「サラ金」に代表される消費者金融の歴史を日本の金融史、社会経済史の枠組みの中でわかりやすく解説してくれる良書。サラ金がどのようにして生まれ、成長していったか、そして社会問題化して規制を受け現在の姿になったのかが丁寧に描かれている。

・サラ金についての本というと、被害者の苦しみ、弁護士たちの苦闘、また当事者たちの暴露や悔恨というテーマの本が多いように感じるの。サラ金自身を主体にしたうえで、それを金融史、社会経済史の中に位置づけるという本書の試みは大変興味深く刺激を受けた。

・サラ金がその時代その時代の金融・経済のシステムの外側にいる弱者を「包摂」して取り込む役割を果たしていたという視点は大変面白い。本来こうした役割は行政等の公的サービスが担うべき問題であり、サラ金の隆盛とそれが生んだ幾多の悲劇は国家の無為によるものとも言えると感じる。

・ただ、本書内に登場する「サラ金の借り手」たちの借金をする理由も、現代の経済感覚からすると相当にズレを感じる。端的に言って「頭すっからかんなのか?」と思うものもある。時代の違いを感じるとともに、消費者保護や金融教育の大切さについても考えさせられた。

・一方で、サラ金の創業者の「サクセスストーリー」は正直に言ってとても面白い。逆境のなかであの手この手を凝らして会社を成長されていく様は胸躍るものがある。「現金の割賦販売」なんて言葉はちょっと思いつかない気がする。(もちろんその過程で多くの悲劇が生まれたことは本書でもしっかりと触れられている)

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2022年08月06日

Posted by ブクログ

さすが新書大賞。日本独自のサラ金の歴史を多角的に描いた傑作。

戦前の素人高利貸に始まり月賦、団地金融からサラリーマン金融そして消費者金融へ。貸金業法の規制もあるがサラ金の大手の攻防が三国志的に楽しめる。

武富士、アコム、レイク、プロミス。

今は銀行の傘下が基本。カードローンにも押されている。

時にサラ金がセイフティーネットの役割を果たしてきたという指摘も興味深い。

学問の奥深さを教えてくれる一冊。

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2022年05月05日

Posted by ブクログ

第43回サントリー学芸賞受賞作品。そして、日本経済史の若き俊才による傑作。

まずサラ金の歴史を狭い意味でのサラリーマン金融各社の歴史で終わらせず、きちんと戦前期の「素人高利貸」の話から説き起こしている点は素晴らしい。史料的に一番大変な時期だったのではないかと思うが、サラリーマン向けの利殖マニュアル本の類まできちんと追っている。著者が図P-1で示しているように「家計」を預金者という視点からだけではなく、資金の借り手として位置付けることは言うほどに簡単なことではないのである。

また家計=個人として捉えるのではなく、家計内構造をジェンダーの視点からきちんと把握しようとしている点が素晴らしい。家政学や開発経済学などでも単純で均一な主体としての家計モデルは批判されており、A.センも複雑な家計の構造を「協力を志向する対立」と捉えているが、本書はそうしたジェンダー視点を十分に取り込むことに成功している。

また広い意味での金融技術の「革新」もサラ金各社の経営実態を明らかにする際に必要な視点であるばかりではなく、日本のマイクロファイナンスの発展史としても読めて非常に面白かった。

「まえがき」で述べられている「その画角の広がりは、金融技術だけに留まらず、人びとの働き方や消費のあり方、家族関係やジェンダーといった、過去を生きた一人ひとりの身近な労働と生活の世界をも捉える」との言は、全体を通読して確信されるものとなっているだろう。

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2022年05月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

サラ金の発展と日本社会の変化がとても密接に絡み合っている事実が分かりやすく説明されており、とても面白かった。

昔ほど、親族間の貸出に高い金利を取った!そもそも、親族、同僚間の貸し借りから、個人ローン市場が生まれた!
団地向けのローンは、団地に入るための審査があるから与信判断不要!
学生ローンは、親を担保に取ってるようなものだからOK!
ハンコや免許証、源泉徴収票を持ち歩いている人間は借り慣れているから貸さない!
104の電話番号案内サービスを活用した与信判断!
銀行からの資金調達が可能になるまでの時代背景も、興味深い。
団信の導入による自殺の増加、自殺の強要を2006年まで放置されていた点も、驚きだった。
外資系の襲来を、金利半減で駆逐したダイナミックさも、驚き。そもそも100%超の金利が異常だったが。。
武富士の転落劇は、本当にスゴイ。取り立てのプロが上司なんだから、部下を追い込むのも簡単。。

なるほど!と、思わせる内容。商魂凄まじい業界だと、再認識。

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2022年03月31日

Posted by ブクログ

1980年代、街を歩いていると必ず「サラ金」が目に止まりました。それは店であったり、看板であったり、吊り広告であったり。また、当時は大量の販促用ポケットティッシュが街頭で配られ、ポケットティッシュはそれだけで十分でした。
サラ金は主に個人への少額の融資を行なってきました。戦前の素人高利貸から質屋、団地金融などを経て変化したサラ金は、経済成長や金融技術革新で躍進。そして、バブル崩壊後、多重債務者や苛烈な取り立てにより社会問題となってゆきます。

本書は1世紀におよぶ「サラ金」の軌跡を追う力作。2021年新書大賞受賞の名に恥じない中公新書の大傑作です。
「本書は、サラ金業者の非人道性を告発・暴露するというより、その経済的・経営的な合理性を、あくまでも内在的に理解しようと努めてきた。いかに強欲で異常に見えても、人間の経済的な営みである以上、その行動はある程度までは合理的に説明できるはずである。それが本書の基本的な立場だった」とあるように善悪の感情を切り離してサラ金を観察しています。

サラ金の起源は戦前の「素人高利貸し」。金を貸すことが義侠心を誇ることであり、男らしさの具現化の時代でした。そして戦後になり、「アコムやプロミスなどのサラ金は、『家族の戦後体制』に寄り添いながら大きく成長した。『サラ金』という独特な消費者金融の呼称は、サラリーマンである夫とその妻という、家族とジェンダー(性差)の視点の重要性を示唆している」。
妻から見たサラ金、サラリーマンである夫から見たサラ金、妻に金を貸すサラ金側の理屈、サラリーマンに金を貸すサラ金側の理屈、他社との競争、金利の低下、社会からの風当たり、貸倒や借り手の自己破産の増加、逆風の法改正の中で喘ぎながら、独特の金融技術で生き残りを図ってゆくサラ金の盛衰記は一篇の大河小説のようで読み応えがあります。

本書は事実に対していちいち引用元を記しています。例えば「相談者は1人平均で10枚のカードを持ち(『朝日』1990年5月13日朝刊)」のように。また、引用文献一覧、略年表も充実していて、資料としての価値も高いと思います。
著者の小島庸平さんは東大大学院経済学研究科准教授。40歳になるかならないかの年齢で、こんな真面目で面白い本が書けるということに驚きます。
新書では珍しい一気読みできる本。これだけの本が1,078円で買えるなら買わない手はありません。

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2022年03月17日

Posted by ブクログ

終章とその直前が素晴らしい。

金銭を借りる需要。
返してくれそうもないところには高い金利で、そうでないところには安い金利で貸す。
ということになるだろうし、金利に制限をつければ、金を借りられなくなる時期が早くなり,そこで自力による社会生活ができなくなる。
それでもなお、足掻きたい向きには、法律の枠から外れた世界で、後一もがきする、ということになる。そこから先は、アンダーグラウンドの世界であり、何がどうなったかは分からないけれども。
単にそれだけのことなのに、利率を何故法規制するのか。
そこらへんのことが、ずっともやもやしていた。

p294で「そもそも新古典派の経済学は、自由であるべき市場に介入する規制は、独占や寡占などの『市場の失敗』が存在しない限り、否定されてきた。(中略)
一方近年めざましく研究が進んだ行動経済学は、人間が常に合理的な選択を行うわけではないという『限定合理性』を前提に、直近の借入であれば高い金利でもよいと考える『現在バイアス』や(中略)の存在を明らかにしている。行動経済学者たちは、金利規制に慎重な立場を維持しながらも、限定合理性に起因する債務過剰を予防するために、政策的介入の必要性を考慮に入れている。」とする一方、改正貸金業法の完全施行によって、特殊詐欺の増加や、ITを活用した「個人間金融の復活」にも目配りしている。

また、「高利貸と民族問題」の項では、憎悪や差別との関係にも、射程を広げようとしている。
この著書で、その分析が充分になされているとまでは、思わないが、「サラ金問題」と他の社会問題の根っこの繋がりを意識することができた。

著者のこれからの活躍を期待したい。

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2022年03月13日

Posted by ブクログ

フラットに、シンプルに、分かりやすくサラ金の歴史が叙述されています。
そこまで長い本ではないですが、ビックリするほどの充実した情報量です。
サラ金についての知識を得るためのスタンダードな一冊であると思います。

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2022年03月09日

Posted by ブクログ

戦前から今日に至るサラ金の歴史の本。

①歴史的変遷
 戦前は個人間貸借でも有利子。貧民窟での顔しれた関係での日掛けの貸出や、サラリーマンの副業としての同僚への貸出から始まった。
 戦後の中間層の消費意欲向上(三種の神器等)もあり、団地金融が登場。逞しい営業力の反面高コストだった。そして、繁華街で遊ぶサラリーマンのレジャー資金としてサラ金が登場。当時の情意考課で遊ぶ人ほど仕事熱心、出世すると考えられていた。当初は上場企業のサラリーマンのみだったが、規模拡大のため顧客層拡大(勤め先不問、女性も)、無人化やリストラによる人件費削減、現在に至る。

②審査基準・債権保全
・(グラミン銀行…借り手同士で5人組を作り、返済に対して連帯責任を負う)
・戦前の貧民窟の日掛け…毎日会う顔知れた関係、貸した人が責任を負う形態
・団地金融…URの入居基準、出前による室内の調査(新しい家電有無、整然さ等)
・サラ金各社…優良企業の勤め人のレジャー資金に限定する、連帯保証人を2人取る、電話番号案内による実在確認、自動与信システム開発、不動産担保ローン、団信(但しモラルハザードや逆選択孕む)、個人信用情報

③その他豆知識
・武富士の社長はなかなか凄い。えぐ…。
・サラ金のポケットティッシュ配布開始は、女性を顧客層に含める営業方針に変わったのと同じ頃。
・貸す時の地蔵、返す時の閻魔(営業担当は女性、債権回収はおじさんが多かった)

⑤気づき
・各社時代に応じて、審査基準の的確さと簡素化のバランス、債権保全、或いはそれを意識した故の顧客層や資金使途の特定に工夫が見られた。
・攻めの姿勢を貫く故、顧客層拡大に伴い債権の質の悪化を招き、オイルショックやバブル崩壊等景気停滞のたびに貸倒を計上し、経営悪化に繋がった。人件費削減等により経営体質改善に努めていた。
・過酷な債権回収により自殺者増加、社会問題となることで世間の批判を浴び、金融機関からの融資が受けられず、法改正による規制の強化を受けた。儲けられる時期があっても世間からの評価が悪化すれば支援が受けられなくなる可能性がある。

結構楽しかったです。

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2022年01月25日

Posted by ブクログ

この新書、やさしい語り口でスルスル読めてしまいます。いや、スルスル読めるのはメチャ面白いから。軽妙かつ深遠かつ広汎…この時点ではベストセラーですが、100年後も残る歴史的名著になるのでは、と思いました。100年後「サラ金」という業態が歴史の中にしか存在しくなっても、です。それは,100年後も存在するであろう金融と家計の関係を社会史、ジェンダー、家族の変遷、経済と政治の流れ、テクノロジー、行動経済学、マーケティング、アンダーグラウンドの問題、メディア、あらゆる領域から語ろうとしている本書のスタンスが、研究というものの面白さを体現しているからです。農業経済学を学ぶ学生だった著者がいかにして「サラ金の歴史」という本にたどり着くのか、という「おわりに」に書かれている研究者としてのアンセムは彼のこれからの研究をも期待させます。運命と機会と好奇心と、そして努力、なんか自分も勉強したくなる超ポジティブな気分になりました。

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2021年06月25日

Posted by ブクログ

 一気読み。これは斬新だ。これまでの情緒的で扇動的な「サラ金」本とは一線を画し、ナイーブな「高利貸し」糾弾の枠を鮮やかに踏み越えた、リテール金融における消費者信用の冷静かつ綿密なクロニクル。僕は一応金融業界の端座に身を置く者だが、本書はそういうバックボーンがない人にこそぜひ読んで欲しいと思う。たとえば金融とは縁遠い主婦や学生などの層が読んでも、十分に知的興奮が得られるはずだ。

 それはとりもなおさずこの本が消費者金融そのものを扱うのではなく、その興亡の背後事情を詳述することによって社会の構造を時系列的にかつリアルに描きだすことを主眼としている、ということに尽きる。一般にサラ金は、のっぴきならない状況に陥った個人への「最後の貸し手」であり、かつそのような事業者に提供される資金は最もホットなリスクマネーだと認識されているだろう。勿論そういった側面も否定し難いが、忘れてはならないのは本書で指摘されているように、消費者金融というのはその時々の社会構造で見出された最も堅牢な社会層に向けた安全な資金運用手段だった、という逆説だ。素人高利貸に始まり団地金融、高度成長期の情意考課、ポスト高度成長期の経済弱者の発生。こういった市場と社会の歪みを機敏に捉え、真先にアービトラージを取ろうとイノベートを試みたのがサラ金業者だったのだ(だからこそ外銀や邦銀がこぞって資金提供を申し出たのだろう)。そしてこの社会構造は当然に人口動態や経済発展により時とともに変動する。銀行などのベーシックな社会インフラとは異なり、サラ金はこの変動の最も激烈な部分のみを受け持った金融サブセクターだったが故に、社会構造の変化にことさらに影響された。彼らは社会変動の増幅検出器、PCR試薬だったのだ。

 グレーゾーン金利などの説明はもう少し丁寧にしたほうが一般向きなのではないかとは思ったが、そんなのは枝葉に過ぎない。僕の能書きなどよりも、まずは本書を手に取ることをお勧めする。こんなに手軽に、深い洞察に触れられる読書体験は稀有だと思う。

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2025年03月13日

Posted by ブクログ

サラ金というテーマだけでなく高度成長の時代背景も学べて良い本。創業の志が高くとも、急拡大の中で組織が歪んでいく様子が勉強になる。

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2024年01月22日

Posted by ブクログ

私には馴染みのないサラ金の歴史を面白く読めた。

初期の個人間の貸し借りの金利の高さには驚かされた。
世間的なイメージの悪さとは裏腹に行政や銀行側の資金運用という体裁も見え隠れしており持ちつ持たれつ感が面白かった。
現在はサラ金というものが消滅したように感じるが個人間の危険なやり取りが見えない世界で行われておりサラ金という体系は形を変えて世に存在し続けるのだろうと感じた。

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2023年04月21日

Posted by ブクログ

サラリーマンが出世のための接待で、自腹のためにサラ金を使った…といった内容があり、昭和は泥臭い時代であり、そうした世相でサラ金が成長したのだと興味深く感じました。

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2023年04月08日

Posted by ブクログ

2022新書大賞受賞作。
もうちょっと、アングラな下世話な内容なのかと思って手にしたけど、普通に経済史の教科書としても使えそうなしっかりとした内容。
そういえば、子供の頃、しがない地方都市の雑居ビルにもサラ金は入っていたなとか、独身の頃にクレジットカードのリボ払いを使っていた頃があったけど、そこから沼にはまらなくてよかったとか思ってみたり。
利用者の視点、経営者の視点、従業員の視点、色々あるよなとも思って読んだ。

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2022年10月10日

Posted by ブクログ

タイトルからしてそのテーマ設定が既に興味深い本。そして実際に読んでみると、丁寧にその歴史がまとめられており、期待を裏切らない面白さ、読み応えがあった。
著者自身が、言及している通り、比較的中立的な立場からサラ金について描かれている。その歴史的成り立ち、金融技術の発展、法改正などなど、激しい変化にさらされながらも発展してきたサラ金の歴史を飽きることなく読むことができる。

サラ金の歴史とともに日本の雇用環境や家庭環境、ジェンダーといった社会経済環境の変化を併せて知ることができる点も興味深い。昨今、金融包摂の取組として、特に新興国では金融アクセス改善などへの取り組み事例も増えていると感じる。

本書に描かれている日本のサラ金の歴史は、新興国などにおける金融包摂の促進という点においても大いに参考になると思う。しいて言えば、サラ金が戦後日本の経済成長にどのような役割を果たしていたのか、どのような影響があったのか、といった側面からの経済学的な考察があるとより参考になるのだろうと思う

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2022年10月06日

Posted by ブクログ

筆者と同世代のためか、ポケットティッシュ配布やテレビCM等のサラ金に対する心象風景は共感できました。なつかしいです。そして、本書を通じて改めて現在のサラ金を見てみると、時代が変わったことも認識させられました。

表面的なサラ金イメージしかありませんでしたが、本書を読んでみて、サラ金が日本でどのように産業化されてきたのか、現在に至るまでの経緯が掴めました。ある意味、世間では馴染みのある産業ですが、私は直接体験したことはないので、新しい世界に触れることができました。新鮮です。

サラ金を通じて、日本の生々しい社会の一面を垣間見ることができます。そういった別視点・視野で自分の世界を拡げたい方にお薦めです。

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2022年07月26日

Posted by ブクログ

日本の戦前→戦後→高度経済成長→バブル崩壊→そして現在までを、経済史、とりわけ貸金に的を絞って紹介する。
一般的には悪名高いサラ金を批判するわけでもなく、擁護するわけでもなく、日本の社会状況と照らし合わせて淡々と綴っていく。

団地妻への融資がサラ金の原点で、その後、稼ぎ頭である夫側に顧客が移動したらしい。
銀行の後ろ盾なく、いかにしてサラ金業者がのし上がったのか。
そして、国内銀行から外国銀行への鞍替え。
この素早さと強かさは圧巻である。

貸金業は、肉体労働・知的労働ではなく感情労働らしい。
だから、金貸の漫画は面白いのである。
この本を読んでから、なにわ金融道、ミナミの帝王を読むとより楽しめるかも。
カイジに出てくる帝愛は武富士をモデルにしているのかもしれない。

貸金改正によって懸念されていた闇金被害は増えず、多重債務による自殺や犯罪が減ったというのは社会全体にとっては良かったと言える。
しかし、業者による貸金ではなく個人間による違法な貸金が横行しているというのは、皮肉である。
なぜ著者はあくまで中立の立場をとるのか不思議だったが、プロミス創業者に北海道で会ったとことがあるというエピローグを読んで納得。

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2022年07月12日

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サラ金の誕生から現在まで、約100年に渡る盛衰とその要因が分かりやすく描かれている。営利を目的とするサラ金がセーフティーネットとなるという奇妙な現象はいかにして生じたのか、などの素朴に興味の湧く問いに対しても、金融技術の進歩やジェンダーなどの観点から、明快な理解をもたらしてくれる。大きく浮き沈みを経たサラ金の変遷を追うことで、ここ100年程度の金融史がダイナミックに表出されている。良書。

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2022年04月14日

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ネタバレ

ALL REVIEWSで存在を知っていたが、読書に至った直接の動機は『中国経済の謎―なぜバブルは弾けないのか?』において「中国の個人融資は銀行の裏口で行われており、サラ金がモデルらしい」というようなことを読んだためである。

本書については、サラ金という主題について広く多角的な視野で述べているのではないかと、素人ながらにまず思った。同時に、繰り返しがくどい部分があるなどの読みにくさがあることも。とはいえ、当初はフラットな気持ちで読めていたのではないかと思う。

リベラル的な物言いがところどころ鼻につき、丹念に調べ上げた事実の列挙と見えた中に、主張がまざるようになった。そうなると、書いてあることのどれほどが事実で、どれほどが主張であるのかわからなくなる。実体験と対照しても、意図的に述べられなかったこともあるように感じられている。

総合すると、このテーマについてはなにか別に読む必要がある。この一冊では終われない読書になってしまった。

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2024年06月12日

Posted by ブクログ

興味ない分野だがお勧めで読んだ。が、読んで良かったとつくづく思う。単なるサラ金の説明に留まらず日本経済までに広い分野に及んでいて、来し方行く末に思いが行った。

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2023年08月14日

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サラ金について歴史を辿れたことで、理解が深まった気がする。取り立て人が脱人格化することで心理的負担を逃れていた点や、サラ金の創業者たちはみな勤倹貯蓄の道徳の実践者であった点などが印象に残った。

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2023年04月08日

Posted by ブクログ

新書大賞受賞本。期待したが、手堅くサラ金の発祥から隆盛、凋落までまとめているが、それだけで深掘がなく残念。
もう少し、借りた人や従業員、経営者の行動や気持ちを掘り下げたり、サラ金が社会に与えた影響(これだけコマーシャルなどで社会に馴染んだことによる貸金への敷居の低下など)を考察してもらえば更に面白かったと思う。

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2022年07月30日

Posted by ブクログ

2022新書大賞の大賞受賞作。

サラ金の発祥から現代の趨勢までが時系列網羅されており、わかりやすくかつ興味深い。

高利貸しにおける「使い」や「走り」などの用語は、いわゆる使いっ走りの語源なのだろうか。

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2022年03月12日

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