あらすじ
戦後日本政界の暗部を描く壮絶な復讐劇。極寒の知床半島。冤罪をはらすため、男がひとり流氷原を渡って帰ってきた! ――流氷に埋めつくされた、極寒の知床。番屋を守る宗吉老人が助けた男・間島勲は、国後島の強制収容所を脱走、えん罪をはらすため、決死の覚悟で流氷原を渡ってきたのだった。昭和維新を唱える塾頭、経済界の黒幕、彼らを操る影の人物……、戦後日本の政治・経済・思想史を背景に、壮大なるスケールで描く戦慄の復讐劇。
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Posted by ブクログ
笠井潔の本を手に入るものから、読んでいく。
主人公は、間島勲。シベリアでの流刑にも耐え、国後島から知床半島までの流氷の海を40kmを歩くタフさがあり、巨大なトドとも戦う。
間島勲は、第三北雄丸、9.9トンのホタテ漁船の乗組員だった。所有者は渥美雄作、各種漁船を5隻所有していた。そして、渥美雄作は第三北雄丸に漁労長として乗り組んでいた。北雄丸は、ゲリラ船の疑いをかけられ、ソ連警備艇に拿捕された。そして、渥美雄作は射殺された。間島勲は、逮捕され、シベリアに流刑されていた。日本側では、間島勲は、死んだという情報が流されていた。
この主人公の間島勲は、戦争中の大陸孤児で、間島夫妻に養育された。そして、早く独立したくて、海上自衛隊に入る。彼は、戦後の日本の弱体化と、それに伴う社会の腐敗を目の当たりにし、この国を守り、正すには自分自身が強くなるしかないと考えていた。それでも、精神的にモノ足らず右翼の神明塾塾頭の矢木沢忍の本を読み心酔していく。そして、矢木沢忍たちは、昭和維新を掲げて決起するが、現役自衛隊員なので、それに召集されなかった。笠井潔は、左翼のイデオローグだけあって、それを右翼的な言説に変える筆力はある。
ただ、天皇については、神と崇める立場は、堅持している。
塾頭矢木沢は、戦後の混乱した社会において、偽善や欺瞞に満ちた政治や文化を徹底的に批判し、日本の真の再生を訴える清冽な思想を持っていた。彼は口先だけでなく、自らの命を賭けて思想を行動で示そうとする、武士のような精神の持ち主であった。間島忍は、その徹底した潔さと行動力に深く感銘を受けた。
まず、「失われた武士道精神の体現」として、矢木沢は戦後の日本において失われたとされる武士道精神を体現する存在であった。彼は形式的な右翼活動に走るのではなく、自己犠牲を厭わない純粋な精神を持って、国家と国民を憂えていた。間島は、矢木沢の中に、自らが理想とする「正しい強さ」を見出したのである。また、この右翼たちは、北方領土返還を掲げる。
また、矢木沢忍が間島に語った言葉の中でも、特に彼を強く惹きつけたのは、「国家は、ただの制度ではない。それは、死を賭けて守るべき精神の共同体だ」というものであった。
昭和維新で、決起して、結果として矢木沢忍は割腹自殺をする。
また、間島勲は、その決起に招請されなかったことで、挫折し、北海道の知床岬で自決しようとするができず、飲んだくれ、結果第三北雄丸の乗組員となって働くのだった。
ただ、この主人公間島勲は、頭が筋肉質系で、復讐といえば殺すしか能がないところが、残念。その企みを暴くということの重要性がない。そして、首謀者、その黒幕、さらにそれを操っているボスを見つけては、殺しまくる。
それに、首謀者や黒幕たちは、意外と口が軽い。おいおい、そんなふうに種明かししたら、おもしろくないよと思うが、意外と安易なのだ。ここらの編集が、物語の質を下げることになる。
第三北雄丸をはめたのは、石山物産の社長であり、その石山物産を動かしていたのは、と次々に改名されていく。そして、ソ連のスパイのモグラ、カラス、猿のように身軽な暗殺者が間島勲と敵対する。
間島功夫には、結婚したい相手がいて、それを離れ、第三北雄丸の渥美雄作の娘、真知子を追いかけるのだった。間島勲は、右翼から、船乗りになり、復讐の鬼へと変化していくが、なぜそのようになっていったかについて、キャラクターの一貫性が見えてこない。そして、最後にこの仕掛けを作り上げた人物が、なんということだ。この配置は、巧みだ。不具合がありながら、ちゃんと着地した。